第3話宣言
「ふざけるな、何から何までわけわかんねぇ!」
「怒らないって言ったじゃないの」
憤慨してみせたナツメに対して、母は困惑したように口を尖らせた。
「怒るかどうかは後で考えるって言ったんだよ。なんで、愛人が本妻宅に行って仲良く交流してんだよ? 腹違いの妹ってなんだよ? なんで、飯作るためだけに一緒に住むんだよ? なんだよ、妹とのラブラブ同棲生活って!?」
もう何から突っ込んでいいのかわからない。
とにかく思い付く限りに叫べば、母はまぁ落ち着きなさいと咳払いをする。
落ち着けるわけがないだろう。
米粒だって口から飛ぶ勢いである。
なぜ、食事中にそんな話をぶっ混んできたんだ。食事中は楽しく会話をしましょうって学校で習わなかったのか。
一切、冷静になれる要素がない。
「今時彼女の一人もいない可哀想な息子にさ、少しくらい可愛い女の子との思い出作ってあげたいじゃない?」
「余計なお世話だよ! だいたい腹違いの妹なんだろ? 思い出作ってどうするんだよっ。ラブになっちゃったら、困るのは俺だけじゃなくて母さんもだろうが!」
それは道徳上どうなんだと吠えれば、母はあっけらかんと答えた。
「まあそれは追々考えればいいじゃない」
「んなわけねぇだろうが!!」
母の適当な性格が炸裂している。
ナツメは目眩を覚えた。
ついでに激しい頭痛もする。
「ほんと、勘弁してくれ……」
深く椅子に座り直して脱力すれば、母が心配そうに顔を覗き込んできた。
だらしなく背もたれに体を預けた形であるが、行儀なんて知るものか。
「あら、大変。顔色悪いわよ、大丈夫?」
「全然、全く大丈夫ではない」
「そう。なら、早く寝てしまいなさい。片付けはやっておくから」
疲れさせた張本人が、そんなことを言うのはどうなんだ。だが、食器を洗うのすらなかなか手伝えないナツメである。運ぶのが精一杯なので、母の言葉に甘えたところであまり結果は変わらない。仕方なく、母に従う。
けれど果たして問題が解決するのだろうか。
一抹の不安を覚えたが、反論する気力も湧かない。
「そうする。だけど、母さん、俺は自分のことくらい一人でできるから、妹と同居なんて絶対しない」
何が悲しくて本妻の娘と愛人の息子が一緒に住まなきゃならないんだ。
向こうだって断れよ。
なんで、やる気になっているのか少しも理解できない。
そもそも、母が交流を持っていたことにも驚いたというのに。
向こうが本妻だぞ。仲良く交流なんてできるわけがない。
でもそれを可能にしちゃうのが母なのも知っている。毒気を抜かれるというか、なぜか場を和ませる不思議な空気感があるのだ。
普通ならド修羅場ものだろうに。父もいないというのに、何をやっているのか。
とにかく、一度に過度な情報を提供されて感情がふりきれてしまった。これ以上の議論などできるはずもないし、ここまで頑固な母を説得するのは苦労しそうでもある。
言いたいことだけ告げて、母の返事を待たずにナツメは自室へと引っ込んだのだった。
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