第2話有罪

なんの冗談だよ、なんて聞ける雰囲気はなかった。


後にも先にも、母が泣いた姿を見たのはそれだけだ。

父とのことが不倫だと告げたときだって、笑い飛ばしていたような母が。

声を殺して泣いていたから、ナツメはますます父が嫌いになった。


女を泣かすようなやつは最低だ、なんて父はよく言っていた。

どの口が言うんだと呆れたものだが、今ほど怒りに駆られたことはない。


それから、父の話は一切していなかった。


だというのに、そんな母に悩みがある?


ナツメは思わず身構えた。


「海外出張っていうか、期間的にはもう赴任じゃないって長期間の仕事をふられているんだけどね」


母は、大手会社に勤めるエンジニアである。

ついでに外国語が堪能のため、あちこち海外に派遣されていた。専門的な説明が外国語でできるというのはなかなか貴重な人材になるらしい。


今まではナツメが小さかったため、長期で家を空けることがなかったが、高校生になったらその言い訳が通じなくなったと愚痴る。


「あんた、料理ができないじゃない?」


とある理由で、ナツメは料理ができない。

だから、母は自分がいなくなったらナツメが餓死するとでも思っているのだ。


「大げさだよ。この日本で料理ができなくたって生きていけるから。外食もコンビニもスーパーもネット宅配だってあるんだからさ」

「そんなの栄養が偏るでしょ。高校生なんて育ち盛りの食べ盛りなのよ!?」

「いや、俺はそんなに食べないの知ってるだろうに」


母と同じか、少し多いくらいだ。


「そうはいっても、やっぱり家の食事が一番でしょう?」

「別に母さんがいなければなんとかするから……」

「なんともならないわよ!」


頑なに母が引かないので、ナツメは思わず胡乱な目を向けた。


「母さん、一体何を隠してるんだよ?」


母がナツメの意見を受け入れないのは、珍しい。いつもなら、あっさりと引き下がるのだ。頑なな様子に、何か思惑があるのだろうと察することは容易かった。


「べ、べつに……隠してることなんてないわよ……」

「母さんの性格じゃあ嘘なんてつけないんだから、さっさと白状したほうが身のためだぞ?」


まるで三文刑事ドラマのような会話であるが、母の目は泳ぎまくりだ。犯人であれば有罪確定である。

怪しいことこの上ない。


「あ、あのね、ナツメは怒るかもしれないけど」

「うん、怒るかどうかは後で決めるから、何?」

「お父さんの葬式の後で、ちょこちょこ向こうの家にお邪魔して交流していてね……それで事情を話したらナツメの妹が、一緒に住んでくれるって言ってくれてね。ほら、可愛くていい娘さんだし、あんたの妹なわけだから、男女で住んでも問題ないわけだし。だから、ありがとうって返事しちゃってね。近々やって来てくれるわけなのよ。やったわね、可愛い妹とラブラブな同棲生活! きゃあ羨ましいーー!!」

「ギルティーーっ!!!」

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