002 第1話 今より少しだけ未来の話 その2
種族がドラゴンである俺だが、幼体であるがゆえに体は小さく、そして脆弱なところがたまに傷。
「よーし、ぐえちゃん、ふらいーんぐ!」
言い終わらない内に空へと投げられたよ。
まあ俺は飛べるから問題ないけどね。ふよふよと飛行しながら、キッテの後を追う。
俺達が出た裏口のドアの先にはちょっとした広さの自家菜園の
キッテはそんな盛り土の横をタッタッタと駆け抜けて……道に出るとクイッっと90度向きを変える。
「ぐえちゃーん、はやくはやく、置いてっちゃうよー」
その場ジョギングをしたまま俺を待ってくれている。
きれいに舗装された石畳の道。トントントントンと靴と道とが奏でる規則正しい音が聞こえてくる。
ちょっと新芽の様子を見ていたので出遅れてしまったようだ。
俺はぐえーと返事をして、急いでキッテの元へと向かう。
ふよふよと飛んでキッテの元にたどり着くと、キッテは元気よく「さあしゅっぱーつ」と言って白の石畳の上を再び駆け始めたので、置いて行かれないようにとキッテの後を追って行く。
「あら、キッテ、おはよう、今日も元気ね」
「おはよう、おばさん!」
「おー、キッテ、後で店に寄りな、例のもの仕入れてるぜ」
「ありがとう! 後で寄るね!」
「キッテお姉ちゃん、遊ぼうよ!」
「ごめんね、お姉ちゃん今からお仕事なの。終わったら遊ぼうね!」
町の人から代わる代わる声を掛けられるこの少女。
キーティアナ・ヘレン・シャルルベルン。普通の15歳女子よりもちょっとだけ背が低いことを気にしている元気な子。白ベースに赤地模様の入ったトレードマークの帽子に、明るい茶色の髪が良く似合う。
風に吹かれて、ふんわりとした内巻きのミディアムボブヘアーが揺れている。
笑顔でメインストリートを駆けて行くキッテと、その姿を見ては声をかける町の人。
俺がキッテの事を大好きなように、町の人もキッテの事が大好きなのだ。それがとても嬉しくて、心がほっこりする。
ふよふよと飛びながらそんな様子を眺めていた所、タッタッタと軽快に駆けていたキッテが、なぜか足を止めてしまった。
おれはぐえーと鳴いて理由を問おうとしたが、理由はキッテの目の前で泣いている少女が物語っていた。
「ふぇぇぇぇぇ、みぃちゃんがぁ、みいちゃんがぁ」
ガン泣きしている5歳くらいの女児。
近くに親らしい人は見受けられない。どうやら一人の様子だ。
「どうして泣いてるの、お姉ちゃんに教えて?」
泣きはらしている少女の前にしゃがみ込んで、理由を尋ねるキッテ。
「ふえっ、ふえっ、みいちゃん、はしっていって、ふえっ、たかい、ふえっ、とこっ、いっちゃったの」
泣きながらも、言葉に詰まりながらも、必死に理由を述べてくれた少女。
どうやら、みいちゃんという猫が逃げて高いところに登ってしまったらしい。
つまりあそこにいる猫がそうだな。
「登ってみたものの、降りれなくなったみたいだね」
キッテが立ち上がって上を見上げる。
視線の先には建物があって、壁にある僅かに出っ張っている部分に猫が乗っている。その出っ張り部分は建物のデザインのため用意されたもので、何かが乗る事を想定されてはいない場所だ。
どうやってそこに登ったのだ、と言う答えの予想は簡単で。建物の近くには街路樹があり建物に向かって枝が伸びている。木を駆け上って枝を伝ってさらに先に進んで建物へと到達したのはいいが、我に返って高さに怯えて動けなくなった、というところだろう。
「ふえっ、ふえっ、ふえぇぇぇぇん」
事実を突きつけられて少女は再び泣き出してしまう。
親に内緒でこっそり猫と遊びに来て、そして今に至るという感じかな。
「大丈夫よ! お姉ちゃんに任せて!」
「ふえっ、ふえっ、お、ねえちゃん、みいちゃん、を、たすけて、くれるの?」
「ええ! お姉ちゃん、こう見えて木登り得意だから!」
言うが否や、街路樹によじ登り始めるキッテ。
右手、左手、右足、左足、それらを器用に動かして……枝を掴み、脚を踏ん張り、上へ上へと登っていく。
騒ぎを聞きつけて町の人たちが集まってくる。
俺はすすすと移動し、木を登っているキッテと町の人たちの視線との間に入る。
キッテはインナーを身に着けてるので下着は見えないとはいえ、年頃の娘のスカートの中を下から見上げていいと言うものじゃない。
人助けのためってなったらキッテはそういう所が無頓着になってしまうからな。俺がしっかりしなくては。
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