第四章 風雲が呼ぶのは 一
その船は高く上がり、船首をオロンに向ければ、勢いよく突進するではないか。
「いけえーッ!」
なんと、船をオロンにぶつけようというのだ。
「馬鹿め」
オロンは嘲笑い、わざと、逃げずに船と向き合う。
(さあ来い。無駄なことをしたと後悔させてやる!)
と思って。目前までわざと来させて、何らかの動きを見せようとした時。船首から何かが飛び出る。
それは、筋骨隆々とした巨漢の人間のようだったが、首がない人間だった。が、胴には目、鼻、口がある。それは刑天(けいてん)という魔物だった。それはコヒョの元の姿でもあった。
「なんだとッ!」
「ぐおお――!」
叫ぶ刑天はもろ手を広げてオロンにとびかかって、しがみついた。意表を突かれて一瞬オロンは動きを止めてしまった。
「おのれ、小癪な!」
「オロン、お前は取り返しのつかないことをしたんだぞ!」
姿こそ魔物だが、声はコヒョのものだった。
鬼と化したオロンは空を自在に飛ぶ能力もある。が、刑天ことコヒョにはない。
鬼と化したオロンはコヒョこと刑天にしがみつかれて、落下してゆく。その下に、船。リオンは咄嗟に動かしたのだ。
「むむッ!」
刑天のしがみつく力凄まじく、鬼と化したオロンでも簡単には動けない。
「僕は改心して世界樹に許してもらって、刑天になれるようにしてもらったんだ!」
「なんだと、そんなことが……」
このことはリオンとマリーも知ってはいなかった。船を動かすといっても、最初は船を少し浮かせて、鬼の集団を引っ掻き回せないかと思っていたのだった。
それを告げられた時、コヒョははじめて刑天になれることを告げた。
ふたりは驚き、次に心配の声。
「不必要に口外せず、不必要に力を見せるべからず、って世界樹に戒められてて内緒にしてたんだけど。今こそ、力を使わなきゃいけないね」
そうして、コヒョは勇を鼓して刑天になって、オロンにしがみついたのだ。
「放せ、おのれ放せ!」
意表を突かれて、目いっぱいの力でしがみつかれたオロンはなすすべなく動けず。
(このまま、骨を折ってやる!)
刑天と化したコヒョはさらに力を入れようとしたが。
「おおお――!」
オロンの絶叫轟き、なんとあろうことか、その力は刑天と化したコヒョに勝り、両手足を目いっぱい広げ。縛めとなっていた手足を振りほどいてしまった。
「しまった!」
縛めを解いたのみならず、猛烈な蹴りが眼前に迫り、咄嗟に腕十字を組んだもののその勢い凄まじく。刑天と化したコヒョは吹っ飛ばされてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます