風雲が呼ぶのは 二

「危ない!」

 猛烈な勢いで落下する刑天の巨体は、背中から船の甲板に落ちた。落ちた拍子に大きな音もした。甲板は凹み、したたかに背中を打った刑天は、手足を鈍く、少し動かすだけだった。

「はあ、はあ。おのれ、憎たらしい真似を……」

 何とか縛めを解いたオロンは、紅い眼をさらに血走らせて、憎悪の炎を噴出さんがばかりの鋭い視線を船の三人に向ける。

 地上では、一瞬の空中戦のことなど気にも留める様子もなく、四人と鬼の軍勢の戦いは続いていた、が。

「鬼ども、一旦退け!」

 オロンはそう号令を掛ければ、鬼どもは整然と動いて。四人から離れてゆくではないか。

「なんだ?」

 源龍(げんりゅう)は追おうとしたが、その腕を貴志(フィチ)はつかんで止めた。

「僕らも一旦休憩だ」

 羅彩女(らさいにょ)も声もなくうなずく。

 香澄(こうちょう)は平然として、まだ余裕そうだったが。三人の様子を見て、それに合わせる。

「なんだよ、畜生!」

 源龍は強がるが、消耗してないと言えばうそになる。たった四人で百はあろうかという鬼の軍勢と渡り合ったのだ。討たれなかっただけでもよくやったものではあるが。

 何があるのかは知らないが、これを休憩に当てることにした。

「コヒョ、しっかりして」

 凹んだ甲板の上で鈍く手足を動かすしかしない刑天ことコヒョのそばにリオンとマリーは駆け寄り、心配の声を掛けるが。

 コヒョの様子はどうも悪いようだった。

「……!」

 甲板にはいつのまにかオロンが降り立っていた。

「弱いくせに……。よくもオレに恥をかかせてくれたな、楽には死なせぬぞ!」

 どかどかと甲板を大股で歩き、マリーとリオン、刑天ことコヒョに迫る。

「なにやってんだありゃあ」

「やめろ、やめろおー!」

 地上からは船の船底しか見えないが、オロンが降りたのはわかった。それが三人を無事で済ますはずもなかった。貴志は思わず声が出る。

「……」

 マリーとリオンは倒れるコヒョのそばからはなれず、オロンをきっと睨み据える。

「ふん、どこまで強がれるかな?」

 三人のすぐ近くまで来る。己の影の頭が刑天にかかる。

 手を伸ばせば、マリーの首根っこをつかんで、ひょいと持ち上げた。

「やめろ、やめろー!」

 リオンは飛ぶように駆け寄り、オロンの足をぶったりけったりするが。軽く蹴られて転がって、コヒョ同様手足を鈍く動かすのみ。

「リオン!」

 マリーはたまらず叫んだ。オロンは得意げな笑みを見せるばかり。

「マリー、お前は、鬼の餌だ!」

 船縁まで来て、小石でも放り投げるようにしてマリーを放り投げた。

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