いざ、物語へ 九

 羅彩女は怒りをあらわにして拳を振り上げ、舌を出しあかんべえをする。

(なんという傲慢な)

 まるで己が神であるかのように振る舞っている鬼と化したオロンの、その傲慢さに貴志は絶句してしまった。マリーもリオンもコヒョも絶句している。

 が、絶句させられっぱなしはいけない、貴志は勇を鼓して叫ぶ。

「ここの人たちをどうした!?」

「黙れ下種!」

 無情にも、返ってくるのは心無い一喝。

「おぬしらと口を聞くいわれなどない!」

「じゃあ何のために顔を見せたの?」

 香澄が問えば、鬼と化したオロンは意地の悪そうな笑みを見せ。それに対し、香澄は悲しそうな面持ちになる。

「お前らがどう狼狽するのか、見に来てやったのよ」

「けっ。最低最悪だね」

 羅彩女は忌々しく吐き捨てる。なんとも本当に意地の悪い。

「オロン、世界樹で気ままに暮らしていた時に見せた笑顔を、見せて。鬼の邪気に負けないで」

 マリーが言えば、リオンとコヒョも続けて異口同音に言う。だが鬼と化したオロンは、意地の悪い鬼の形相で不快なえくぼを作り。マリーたちの言葉は届いていないことを見せた。

「もうよい。下種の相手も飽きた」

 と言ったところで、

「くらえ!」

 という絶叫とともに、短槍が鬼と化したオロンに向かって放たれた。しかし、力及ばず、途中で落ちて。空しい音を立てて地に落ちた。

「はっはっは! なんだその無様さは。私を笑わせようとしたのか!」

 人がいたのか! と一同は驚いて、短槍を投げつけた衛兵の男を見やった。

 建物の中から咄嗟に飛び出し、短槍を投げつけるまで。誰も気が付かなかった。上手く気配を殺せたあたり、相当な手練れと思われたが。

 額が血に濡れ、吐血までして。鎧も自身のものか、血で汚れ。満身創痍なのは見て明らかだった。

「おのれ、無念!」

 衛兵はがくっと崩れ落ちて倒れ、香澄たちは咄嗟にその元まで駆け寄る。

「しっかりして」

「どなたかは存じませぬが、どうか、我らの仇を……」

 か細い声でそう言うと、衛兵はこと切れた。

 源龍は落ちた短槍のもとまで行くと、拾って。貴志向けて投げつけ。貴志も上手くつかみ取った。

「使ってやれ」

「うん、わかった」

「ふん。くだらん」

 鬼と化したオロンは、すっ、と煙が消えるように姿を消した。

 源龍は香澄の方を向いて、問う。

「あいつは時空を歪め、異世界から攻めてくると言ったな」

「うん」

「じゃあよ、ここにいた人らは、鬼の国へ連れてかれたんじゃねえか?」

「それはあるかもしれないわね」

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