いざ、物語へ 八
「うん、降りてみよう」
意を決し、貴志は言う。源龍に羅彩女、香澄も同じくだった。マリーはやや緊張の面持ち。コヒョがさり気にそばにいてやる。
リオンは合掌し、むにゃむにゃ唱えれば、船は高度を下げる。
山の上の城塞がはっきりと見えてくる。
台形の山の上もまた広く、城塞の敷地もなかなかの広さで。中庭に船を停められそうだ。
「誰もいない……!?」
貴志は絶句する。
船はついに中庭に達し、船底は地面についたが。王宮の立派な建物や高い塀の中は、無人。だれもおらず。明らかに異変があることの緊張を禁じ得なかった。
「うひゃあ、これは本当にやばいよお~」
「本当に鬼たちが来て、みんなをさらっていっちゃったのかなあ?」
リオンとコヒョはきょろきょろする。
もちろん他の面々も、周囲を見渡し、誰かいないか探るが。ひとっこひとり見当たらない。
「仕方ねえなあ」
源龍は船から庭に飛び降り、羅彩女も続けば。香澄も続いて飛び降りる。が、貴志には、
「ここにいてあげて」
と言って。貴志も心得たとうなずく。
「無駄だ!」
そらからこだまする声。皆、何事かと空を見上げれば。
空に浮かぶ、鬼と化したオロン。貴志は咄嗟に弓矢を構える。
すると、どうしたことか、オロンの姿がゆがんで、ぼやけて見えるではないか。
「ああ、くそ、時空を歪める力も戻ったのか!」
悔しそうなのをあらわにしてコヒョは叫んだ。
「力が戻った?」
「そうですね、力が戻ったみたいですね」
「そうなのか……」
貴志は呻きつつも、ままよと矢を放った。
しかし、矢は歪んでぼやけるオロンをすり抜けて。それから反転して、空しそうに貴志のもとまで戻り、その手につかまれる。
「そんな……!」
貴志は歯噛みする。矢を射ても当てられないなんてと。
「やっぱりそうだ、声もきれいになってるし。力を完全に取り戻したんだ!」
リオンも悔しそうに言う。
確かに、無駄だ、の声は最初のとは違い、良い声ではあるが。気をしっかり持っていないと、あらぬところへと誘われそうなほど、耳にも心にも心地よい声だった。
「ああ、もう。せっかく鬼の邪念と引き離せたのに」
「欲の邪念は、本当に厄介なほど強いね」
リオンとコヒョはそろって地団駄を踏む。
マリーも絶句し、かたまったまま、貴志のそば。
「降りてきてオレらとやりあうつもりもねえみてえだな」
「そうだな、お前ら下賤の者どもなど、相手にせぬわ」
「言うじゃねえか」
「こうして口を聞いやるだけでも感謝せよ」
「は、ふざけんじゃないよ、ばーか!」
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