いざ、物語へ 七
人海の国は、その港は徐々に見え始めてきているのに。他の船は一艘も見当たらない。いくらなんでも、静かすぎる。
鬼が結界を張ったせいかどうか。
「……、ちょっと、飛ばしてみるね」
リオンは合掌し、なにやらむにゃむにゃ唱えると、海に浮かんでいた船は浮き上がり、人海の国に向かう。
船はぐんぐんと高度を上げ、手を伸ばせば雲にも届きそうなところの高度をたもち。人海の国の真上へと向かう。
「山の上に城塞があるな」
源龍が船から人海の国を見下ろし言う。
山の形はほぼ台形で、平らかな頂上の上に石垣が組まれ、王宮とおぼしき建物もあり。それを高い塀が囲み、城塞の様相を呈していた。
山のふもとまでの道も整備されて、勾配こそ急なほうだが、人の足でも上り下り出来そうではある。
山のふもともそれなりに広い平地になっており、港街や田畑の展望も広がっている。
山の勾配の緩めのところにも、畑があり、そういう時期なのか、畑の木に色とりどりの実がなっていた。
「桃?」
船は高度を下げれば、木になる実が桃なのがわかった。その桃の色の多彩さはまるで虹を見るようで、自分たちの世界の桃とは種類が違うようだ。
他の畑を見れば、黄金食の麦がよく生っている。
「海でもいろんな魚介類獲れるんだろうね。山の幸海の幸に恵まれてるのが、ここでもよくわかるね」
コヒョは感心して言う。
「なるほど、食うに困らなきゃ、戦なんざする必要もねえからな」
剣よりも筆を持つことをもっぱらとする文化的土壌も出来るのだと、実際に自分の目で見て、源龍は自分なりに理解した。
「だから、狙う奴は狙うわけだね」
「そうだな。戦で刀振り回したって、偉くもなんともねえぜ。けっきょくやるこたドロボーだからな」
「ほんとにね、刀持つより筆持つ方が何倍もましだよ」
源龍と羅彩女は実戦経験も世俗の経験も豊富な分、辛辣な意見もよく出る。
「戦をするって、哀れってことでもあるのね」
香澄は眼下の人海の国を眺めて言う。貴志やマリーもうなずく。
(こいつも、さりげにきついことを言うな)
源龍は香澄の言葉にうなずきつつも、苦笑もする。
「思い切って、城塞に行ってみようか」
と、リオンは言った。
高度も高めなので、城塞からも船ははっきり見えず、見えても大きめの鳥だと思われているだろうが。
船が空から降りてきて、さて人々はどのような反応を示すのか。
「人が見えない。これはいよいよ危ないのかもしれないよ」
すでに鬼が来て、皆連れ去られてしまったのかどうか。
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