いざ、物語へ 四

 その鬼の国は、岩山ならびたつ不毛の地。太陽が昇れば容赦なく暑く、夜になれば容赦なく寒く。食べるものも少ないため、生きるための糧を鬼同士争って奪い合っていた。

 そんな中で、鬼の国を統一した鬼が現れた、それがオロンだった。さらに、異世界へ行けるよう時空を歪ませ、穴まで空けられる力まで持って。イナゴの群れのごとく異世界へ攻め込み、殺し、奪いを繰り返していたという。

「それをどうやって抑えたんだ?」

「香澄がね」

 視線が香澄に集まり、

「いやだ、そんなに見られたら照れるわ」

 と、はにかんだ笑みを見せた。

「香澄の鬼退治か。まあ、そりゃやろうと思えば出来るだろうな」

「で、僕同様、子供にされて、世界樹に放り込まれたんだ。ほら、源龍さんの打龍鞭の前の持ち主の、虎炎石(こえんしゃく)と同じように、めそめそ泣く子供にされてさ」

「ああ、あいつと同じようにな……」

 コヒョに言われ、ふと、打龍鞭を手に入れたいきさつを思い出した。あの時、どこか戦場へと飛ばされ、混乱の中で虎炎石と渡り合ったのだが。

 悪さを働いた罰が、子供にされるというのは、甘いような気もしたが。ずっとめそめそ泣きどおしなのである。その胸の内はいかなるものかと思うと、ぞっとさせられるものだった。

「でも時が経って許されて、平常心で暮らしてたんだけどね。だけどね、鬼の念は執念ぶかくてねえ……」

「つまんない奴ほど逆恨みを忘れないもんだねえ」

 羅彩女は呆れつつ相槌を打つ。

「ちょっと、いいかな」

 貴志だった。疑問があった。

「鬼の念って、どういうものか、もっと詳しく教えてほしいんだけど」

 鬼であったオロンは香澄によって退治されて、子供になって世界樹で暮らしていたが。鬼の念とは。それに応えるのは香澄。

「鬼は実態がない、目に見えぬ念。常に依り代を求めて、時空を超えて彷徨っている……」

「つまり、その、人の、本能、欲望が念となって彷徨うと考えていいのかな」

 香澄は頷いた。

「魔物、怨念か。たしかにそういうのは、時空を超えてしまうものだね」

「あんな住みづれえところなら、その鬼の念に簡単に取り憑かれて、鬼同士でやりあうだろうな」

 不幸にも不毛の地に生まれてしまえば、生きるために鬼にならざるを得ないだろうと、源龍や羅彩女は実感があったものだった。

 鬼については、先に話は聞いていたが。

「鬼の不幸は、助け合って生きる考えがないところね。ただただ、食らうために、殺して奪うばかり」

「うーん、でも、不毛の地でも、助け合えばなんとかなりそうなんじゃ」

「甘い甘い」

 源龍は手を振り言下に否定した。

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