いざ、物語へ 三
「すげえなあ。オレらの出番ねえんじゃね?」
「それならそれで、人海の国の、物見遊山も一興じゃないの?」
「うめえ酒や食いもんあるかな」
などと、怒ってから一転した源龍と、羅彩女はのんきな話をする。
しかし香澄とマリーに、コヒョ、リオンは黙って成り行きを見守る。
オロンの反応を見て、貴志はまた矢を放った。その矢も意思あるもののように、逃げるオロンを追った。
「これに当たったら、中の鬼がしとめられて、オロンも元に戻るんだ」
とコヒョは語った。
貴志は三本目の矢を構えて、様子をうかがっている。
(しかし……)
威勢がよかったのが、矢に追われて、一転して狼狽する有様。
(哀れな)
その哀れなさまこそ、鬼のような、様々な地域に伝わる魔物の存在の本質ではないかと、貴志はふとふと思ったのだった。
「なんでえ、意外とあっけねえもんだな……」
と、源龍がぽそりとつぶやいた、その瞬間。
雲の一部が不意に閃き。雷鳴が轟いたかと思いきや、雷光もほとばしり、オロンを追う二本の矢が砕け散ったではないか。
「なんだって!」
貴志は三本目の矢を構えていたのを解いて、飛び散る破片と、雷光を放った雲とを交互に見やって。ううむと呻いた。
破片は風に吹かれて、まさに塵芥と散らばってゆく。
他の面々も、突然のことに言葉もなかった。
「くそ、おぼえていろ!」
オロンは咄嗟に、その雲の中に、まさに雲隠れしてしまった。その雲も、どこかへと飛び去って行ってしまった。
緊張感みなぎっていたのが一転して、静かな空に戻った。
「ふん、とんだちんぴらだぜ」
源龍は、ちんぴら呼ばわりされたのを根に持っていた。
ふと、視線を感じた。香澄からだった。
「鬼のことだよ」
と、あらたまって言う。
それにしても、鬼と化したオロンは様子伺いにちょっかいを出したのかどうか。
それにあの雲。鬼の力は気象すら操れるのか。ただオロンの様子からして、雲を操る余裕はなさそうだったから、他の鬼によるものなのかどうか。
いずれにしても、厄介な相手だ。
「ともあれ、人海の国に行ってみよう」
「そうだね」
船は一路人海の国を目指して、空路を進んだ。
それからしばらくして、海に浮かぶ。
そのまま空を飛んで行ってもいいのだが、怪しまれないために着水した。
どんぶらこどんぶらこと、波に揺られる。操船はリオンの念力で進んでいて。
その間、鬼の国のことをリオンが話す。
「鬼の国は、異世界にあって、時空の穴を通って他の世界の国に攻め込むんだ」
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