いざ、物語へ 二

「ん?」

 顔を空に向けた、その先に、なにかがあり。目に入ってきた。鳥かと思ったが、違った。

「おい、餓鬼が浮かんでいるぜ」

「え!?」

 リオンとコヒョ、マリーは驚き、源龍の視線の先を見据えれば。

「オロン、オロンじゃないか!」 

 姿こそ世界樹のもとにいたころの、子供の姿だが、その顔はまがまがしく眉間にしわを寄せていた。

「お前たち、忌々しくも邪魔しにきたのか!」

「うひゃあ~、声が全然違ってるよお~」

 子供の姿ながら、声色は全く別物の、禍々しい皺枯れ声だった。その耳障りな禍々しい声に、一同眉を顰める。

 ただ、その反応を見たオロンは、

「くそ!」

 と吐き捨てる。

「世界樹どものせいで、力がまだ完全に戻っておらぬ。力が戻れば、声のみで人の心をもてあそぶものを!」

 禍々しい声色なのは、力が戻り切ってないためだという。

「オロン!」

 香澄は叫ぶ。叫びながらも、その声色は優しい。

「悪いことは言わないわ。心の中の鬼に負けないで、戻りなさい」

「黙れ!」

 すぐさまに否定の応えがかえってきて、香澄は悲しげな目をする。

「お前の七星剣にしてやられて、せっかく乗っ取った身体を追い出されたが。今度はそうはいかぬぞ!」

 オロンの、香澄を見下す目は冷たくも憎悪に燃えていた。

「なんだ、こいつも香澄にしてたられたクチか」

 源龍は、何を言ってやがるんだと思いつつ、己の知らぬところでの香澄の活躍に対し、内心、たいしたもんだと感心した。

 しつつ、

「おい餓鬼! 四の五の言わねえで、ここでケリつけようじゃねえか。来いよ!」

 と源龍は打龍鞭を掲げて叫んだ。だが、

「ふん、お前ごときちんぴらなど、誰が相手にしてやるか」

「びびってんじゃねえぞ餓鬼がコラ!」

 鬼と化したオロンにちんぴら呼ばわりされて、源龍は素直に怒った。

(自分でも言ってたのに)

 まあ、自分で言う分にはいいが、人から言われたら腹が立つもんだと、羅彩女はふと思った。

「これ!」

 コヒョだ。いつの間にか、弓と、矢のたばをかかえていた。咄嗟に船内に駆け込み、倉庫から持ってきたのだ。

「うん」

 貴志は素早く弓を取り、矢をつがえる。つがえながら、コヒョに問う。

「これ、当ててもいいんだね!?」

「うん、世界樹特製の矢だからね!」

「よし!」

 矢は放たれた。矢じりが陽光に照らされる。

「おのれ!」

 オロンは飛んで避けようとするが、なんと矢はまるで意思あるもののように、追いかけるではないか。

「世界樹の枝で作った矢だからね、効き目あるよ!」

 リオンは期待いっぱいに言う。

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