第二章 いざ、物語へ 一
そう、リオンは船を飛ばす不思議な力を持っていた。
「でも戦えないから、そっち方面は源龍(げんりゅう)さんに任せたよ」
「おう、任せとけ」
威勢よく、打龍鞭(だりゅうべん)を振るえば。唸る風切り音。
「ところで、この船は……」
「そうだよ、辰(しん)の宮殿の中庭の船だよ!」
「あー、そうか。道理で見覚えがあると思ったぜ」
今自分たちが乗る、空飛ぶ船は、辰の宮殿の中庭にあった船だった。かつての障魔との戦いで、突然宮殿に飛ばされ、そこからてんやわんやの騒ぎを経て。公主とその武芸の師匠に導かれて。中庭の船に至り。リオンがこれを飛ばした。ということがあった。
が、戦い済んで、力を取り戻した世界樹により、一部の記憶を消したうえで、元に戻されていた。船も中庭に戻されていたのだが。
ちなみに、中庭に船を置くのは、酔狂なことであるが、辰の技術力を示すためでもあった。
「いい船で、僕も気に入ってたんだよねえ」
「はあ。今頃辰の宮廷は大騒ぎだろうな」
「それは大丈夫!」
「どうして?」
貴志(フィチ)の疑問に対し、リオンは得意げな笑顔でうなずき応える。
「この船は、複製なんだ」
「複製!」
「そう、世界樹の力も借りて、複製を造ったんだ」
「なんとまあ、すごいことを……」
もうただただの驚きしかない。
「そんな力がありゃあ、鬼どももなんとか出来んじゃねえか?」
源龍が、もっともな疑問をリオンに振るが。
「まーね、僕もそう思うんだけど。向こうも力があって、世界樹への妨害もしててさ、これが精一杯なんだ」
「だから、源龍さんたちの力を貸してほしいんだ」
コヒョがリオンの言葉を継いで、源龍をじっと見据える。
「ふん」
源龍は少し強めに息を吐き出す。
「まあそんなこったろうと思ったぜ。こんなちんぴらに頼らなきゃならねえなんてな」
「そんな卑下は、おやめなさい」
香澄(こうちょう)だった。その澄んだ瞳で、じっと源龍を見据えている。
「そうだよ源龍、ちんぴらは卑下しすぎよ」
羅彩女(らさいにょ)も香澄に同意する。貴志もマリーも、リオンもコヒョも、うんうんとうなずく。
「そっかあ?」
源龍はすっとぼけた反応を見せる。
親を知らぬ流浪の民の子として、最下層で泥をすするようにして生きてきて。その感覚が根強く残っている。
「別にオレは卑下してるわけじゃねえが。まあ、おもしれえことになりそうだ、とな」
と、打龍鞭を肩に担いで、顔をそらし、目を上空に向ける。
(あらまあ、内心嬉しいくせに、照れ隠しなんかしちゃって)
子どもっぽいが、顔をそむけ、素直な反応をしない源龍に、羅彩女は好もしさを覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます