夢は覚めず 九

「いるかどうか、私にはわかりません」

 貴志が屋敷の中にいるかどうかは、警護や召使いたちもわかっているのだが。気遣って言葉を濁したのだ。

(違う国で違う言葉でも、話せるようにしてもらえたのは、便利ね……)

 源龍は大陸の大帝国、辰の辰人で、半島の国暁星の言葉はわからないが。世界樹の力によって異なる言語でも話せるようになっていた。

(ご都合主義だなあ)

 と、貴志は便利さをありがりつつも、そんな苦笑する思いもあった。

「やめなよ、みっともない」

 羅彩女だ。源龍とよくつるむ女侠だ。源龍のわがままをおさえられる数少ない存在でもあった。

「……」

 急に静かになって、香澄たちは不思議に思ったが。

「いるんだな」

 察した源龍は扉を叩いて、

「打龍鞭でぶちやぶるぞ!」

 などと、物騒なことを言う。

 いつもながら滅茶苦茶だ、と思った時。扉が開いて。

 剣のきっさきが源龍の鼻先に突き付けられた。

 香澄の七星剣だ。素早い動きで扉までゆき、素早く剣を抜き、開けると同時に突き付けたのだ。

「だめよ源龍、お行儀よくしましょうね」

 剣を突き付けながら、香澄はにっこり、笑顔で言った。

「なんだよ、香澄もいたのか」

 それどころか、奥を覗けばあの見覚えのある金髪碧眼の女性がいる。

 何かが頭の中でひらめいた。

「お前らがそろっているということは、何か面白そうなことがあるってことだな?」

 源龍は不敵な笑みを見せた。なかなか察しがいいものだった。香澄に剣を突き付けられても、屁とも思ってない感じで。

「またなんかあるの?」

 羅彩女も察して苦笑しながら言う。

「こほん!」

 警護兵が短槍を携え、咳払いをして存在感を示す。その時に香澄はさっと剣を鞘にしまう。

「わかったわかった」

 源龍は一旦自室に戻る、羅彩女は、

「まだまだ子供だねえ」

 とその背中を見送り、貴志の部屋の中に入ってゆき。マリーとお久しぶりと挨拶をかわし、話を聞いた。

「やっぱりまたなんかあったわけね」

「ええ、はい」

「まあ、こつこつ働くより、獲る方が手っ取り早いからねえ。でも貴志からしたら、長い目で見たら……、ってやつでしょ」

「お察しの通りです」

「学ばずは卑し」

 最後のしめに香澄が一番きついことを言う。

「なりません、あなたは貴志さまのお部屋に入れるわけにはいきません!」

「取って食うわけじゃねえし、いいじゃねえかよ」

「ならぬものはなりませぬ!」

「なんだよ、貴志とおんなじ石頭だな!」

「そのように貴志さまを侮辱するなら、なおさら入れるわけにはいきません!」

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