夢は覚めず 八
それと同じように、あの鬼も子供となって世界樹の世界にいたのだが。
「かわいそうなオロン……」
マリーはぽそっと言った。あの子供の名はオロンだとわかった。
「鬼の邪気は執念深く、オロンを探し求めて、とうとう見つけてしまったのね」
「邪気が世界樹の力をしのぐ。そのたびに、阿澄は戦っていたのかい?」
「そうね。でもひとりではどうしても限界があるから……。前の時は仲間に恵まれたわ」
「……」
貴志は何とも言えなかった。完全に不同意の成り行きだったが。それは邪気と戦い、これを鎮めるための仲間を求めていたからだったのか。
それにしても、ちょっと、よくない出会い方だったような気がとてもするのだが……。
ともあれ、話はわかった。では、その異なる世界にどうやって行くのか。
「本を開いて」
「え?」
「本を開いて、それを通じて行くのよ」
「本を通じて!?」
それこそまさにおとぎ話のような話だ。おとぎ話の世界の国にゆくのに、それを記した本を通してゆくなんて。
そりゃあ、今までいろいろと信じがたいことがいっぱいあって。不思議なことには遭い慣れた、と思ったが。やはり慣れることはなさそうだ。
「本を通じて行くったって。どうやって!?」
「貴志、いるか!?」
扉をどんどんと無遠慮に叩く音がする。源龍だ。
「稽古の相手になってくれよ」
源龍はじっとしていられない性格で、よく庭で得物の硬鞭・打龍鞭を振り回しているが。ひとり素振りで満足する性格でもなく。よく貴志に相手になれとせがんでいた。
貴志は口を閉ざし、敢えて居留守を決め込んだ。香澄とマリーもそれに付き合い、目配せし合って、静かにした。
源龍は得物の打龍鞭を肩に置いている。鍛え抜かれた鋼の打撃武器で、鍔はないが、刀剣と同じような柄がある。形は六角形で細かいことに各面に龍の彫刻がほどこされている。
この得物を相棒として、障魔と戦ったものだったし。源龍も相当なお気に入りだった。
そんな得物を扱う源龍も、鍛え抜かれた肉体の持ち主だった。稽古のために半袖の簡素な服装で、その身体つきのごっつさが強調されていた。
「困ります、武具は預けてもらわないと」
警護の兵が苦言を呈す。武具は兵に預ける決まりだったが、源龍はなかなか守ろうとせず、他の者に説かれてしぶしぶ預けるのだった。
外で素振りをするからと、預けたのを返してもらっていたのだが。貴志を呼ぶために持ったまま屋敷の中に入ったのだった。
「おい、貴志はいないのかよ」
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