夢は覚めず 二

 四人は、半島の国、暁星(ヒョスン)の都、漢星(ハンスン)にある李貴志の邸宅の庭にたたずんでいた。

 他の仲間たちはいない。

 みんな、それぞれの、いるべき時、ところへと還っていた。

「貴志おぼっちゃまに、食客のみなさま、どうしたのですか?」

 庭で掃除をしていた召使いたちは、ぽかんとしながら四人を見やった。

(そうか。他の人たちは、忘れさせられたんだ)

 様々な出来事があった。身近な人の死もあった。それらも、戦い済んで、忘却の彼方へと。世界樹の力によって。

「いやあ、その、僕ら、気晴らしに屋敷のあちこちをみんなでうろついてたんだ」

「わざとらしいなあ、おい」

「うふふ」

「まあ、そういうこったねえ」

「はあ……」

 召使いはぽかんとしてから、愛想笑いを浮かべ。そうですか、と応えた。

「掃除の邪魔になっちゃうね、ごめんなさい。すぐ行くよ」

 貴志はそう言い。四人は早歩きで屋敷の中へと戻っていった。

 そういえば、四人とも平服だ。少し前まで、源龍と羅彩女は鎧をまとっていて、それぞれ武具を持ち戦っていたのが。

 これも世界樹の力か。

 戦い済んでからの世界では、貴志は李家の五男坊なのは変わらないが。源龍と香澄に羅彩女の3人は、食客として李家に居候をしている、という風になっているようだ。

 屋敷の中へと戻れば。貴志はもちろんのこと、食客にも個室が割り当てられているという厚遇ぶりである。

 部屋は二階にあった。

 しかし何の故あって宰相家に居候しているのか。

「……」

 貴志は、ふと、何かが頭の中で引っ掛かっているような思いに駆られた。何かを忘れて、もう少しで思い出せそうな、あの、頭の中で何かがひっかかる、あの感じ。

(なんだろう)

「まあいいや、オレは昼寝でもするさ」

「あたしも」

「私は読書がしたいわ」

 香澄は貴志に頼んで、何か面白そうな本を選んで持ってきてほしいとお願いする。

「わかった。まあ、僕も自分の部屋で休むよ」

 なんだったっけ? と思いつつ。自室に入って。適当な本を探して、香澄の部屋に持っていってやった。

 それから、数日はのんびり暮らした。

 とはいえ、じっとしていられない源龍は何かにつけて得物の硬鞭、打龍鞭(だりゅうべん)を振り回し、鍛錬(?)に余念なく。

 同じくじっとしていられない羅彩女も、もらった饅頭をぱくつきながら源龍の鍛錬を見物し。たまに自分も身体を動かした。

 香澄は貴志に本をわけてもらって、読書三昧の日々。

 貴志は、父とともに王宮に出仕し、公人としての役目を果たしていた。

 時に、海鮮チゲなど、美味しい食事に舌鼓を打ち。

 のんびりながらも、それなりに楽しい日々を送った。

「旅の途中、猛獣に襲われたのをあの方々が助けてくれなんだら、お前はいなかったのだな」

 ある時、ふと、父はそんなことを感慨深げに言った。

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