幻想小説 流幻夢

赤城康彦

第一章 夢は覚めず 一

「死にたいやつからかかってこい!」

 ぶうんとうなる硬鞭(こうべん)。

 ここは戦場。風雲空を覆う。

「うおおお――ッ!!」

 硬鞭のうなりを合図にするように、空(くう)が揺れるほどの雄叫びがあがった。

 赤い肌に赤い髪、紅い眼、頭から角を生やした異形のものたちが、大口を開けて叫びながら駆け出す。その大口から、鋭い牙が見えた。

 その太い手には、棘のある太い鋼の武具。これに打たれたらひとたまりもなく肉体は砕かれる。

 その数は、すぐには数えきれないが、百はあるかもしれなかった。

「おもしれえツラしやがって!」

 硬鞭を掲げた黒い鎧の戦士は不敵な笑みを浮かべ、駆け出す。

「君ひとりじゃ無理だよ!」

 と呼びかける声。黒き戦士とともに駆け出す書生風の青年。右手に短い槍を握り締めている。

 さらに、

「手柄を独り占めさせないわ」

 と言う柔らかな声。紫の衣をまとった少女だった。その手に握る剣の剣身には、北斗七星と同じ配列の七つの紫の珠がうめられている。

「まったくせっかちなんだから」

 今度は赤い鎧をまとった女戦士。長い黒髪をなびかせて駆け。その手には、軟鞭(なんべん)。

 この、たった四人は、百はあろうかという鬼の軍勢に向かってゆき。

 ぶつかった。

 鬼の咆哮すさまじく、その手の棘のある鉄の塊、金砕棒(かなさいぼう)もうなりをあげ。四人を粉々に砕こうと迫る。

 しかし、四人はそれらをたくみにかわしながら、それぞれの武具がうなり、ひらめかせる。

「ぐおお――ッ!」

 咆哮は断末魔の叫びと変われば。鬼はまるで熱した鉄板に落ちた水滴のように、じゅわっと消えてゆく。

 鬼との戦い。

 四人、源龍(げんりゅう)、李貴志(イ・フィチ)、香澄(こうちょう)、羅彩女(らさいにょ)は鬼どもをものともせずに果敢な戦いを見せた。

 

――時は遡る。


 かつて、世を混迷に陥れんとする、障魔との戦いに臨み。

 これに勝利した。

 四人のほか、さまざまな仲間たちと力を合わせて。

 戦い済んで、草原にそびえる大樹こと、世界樹の下で、仲間たちと思い思いにくつろいで。疲れをいやした。

「そんじゃあ、そろそろ行かなきゃね」

「今まで、ありがとうございました」

「では、私も……」

「じゃあねえ、元気でねえ~」

 それぞれ思い思いに挨拶し、惜別を覚えつつ、それぞれの世界へと、還っていった。

 目を閉じ。

 次に目を開けば……。

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