24 練習してみよう 2
こんな気になったのも、昨日の女の人たちの会話からだ。
「イェッタちゃんは、まだはいはいもしないんだねえ」
「少し遅れているみたいだけど、もう間もなくかもしれないねえ」
正確なところは聞きとれなかったけれど、そんな話だったと思う。
つまり、生後十ヶ月くらいだとこれ、できて当然というわけなのか。
人より遅れているというのは、癪に障る。
――ならば、頑張るべし。
ということで、昼前はそんな運動に時間を費やした。
手で上体を
疲れてきたところで、乳を飲ませてもらう。
その後目を開いていられなくなり、ひと眠り。
目覚めたときには、どのくらいの頃合いか分からなかったけれど。少し周囲の喧噪が変わっている感じがした。
見回すと、人の数が増えている。
小さな子どもが五人遊んでいたところに、もう少し大きな子どもが加わっていた。
男女合わせて二人、のようだ。どちらも十歳を超えたくらいか。
こうした集まりに預けられるほど幼くはないけど、大人と同じに働くにはまだ早い、という年回りだ。家の仕事なんかをしていて時間が空いたので、子守りの助けに出てきたというところだろうか。
何しろ見た目やっていることは、子守りの手伝いそのものだ。
小さな女の子二人は、その年かさの女の子の隣に座って一緒にお手玉をしている。
男の子三人は、大きな男の子に代わる代わる飛びかかっては投げ捨てられている。中でも五人のうちいちばん年長に見えていた男の子が、何とも嬉しそうだ。
大人の女の人二人も、笑ってそれを眺めている。
「やっぱりコンラートとツァーラが来ると、みんな元気になるよねえ」
「本当に。特にうちのホルガーは、小さい子の相手ばっかりじゃ退屈しちゃってるからねえ」
――ふむふむ。
今日初お目見えの男の子がコンラート、女の子がツァーラ、今までの最年長の男の子がホルガーというらしい。
昨日も思ったように、ホルガーはロミルダの息子のようだ。
確かにホルガーはいつももっぱら小さな子どもたちに飛びかかられる役回りのところ、今は逆に年長者に組みついていけるのが嬉しい様子だ。
ひとしきりばたばた暴れ回り、小さな男の子たちは床に尻餅をついて息を弾ませていた。
その中でもホルガーは元気を残していたようで、数回肩を上下させただけでまた立ち上がっている。
「コンラート兄ちゃん、魔法、また魔法教えて」
「いいけど。お前、火の球大きく出せるようになったのか」
「カンペキさあ」
「ほんとかあ? ロミルダ姉ちゃん、火魔法使っていいかい?」
「ああ、あっちの土間に向けてならいいよお」
「よっしゃ」
コンラートが土間との境の方へ寄っていき、ホルガーがそれを追う。
他の子どもたちは大人しくそれを見ているようだ。
「見てろよ」と断り、コンラートは少し腰を屈めた。右手の四本指を伸ばして、左肘の外に構える。
ほどなくして、その指先に火が点った。見る見るうちに、掌の大きさほどの球の形に膨らむ。
「行け!」
低い声を発して、コンラートは左から右へ腕を振った。
指先から、ビュン、とばかりに火球が飛び出す。
たちまち、戸口横の石壁に衝突。パアッ、と弾けてすぐに消えた。
「わあ、凄え!」
「凄い凄い!」
ホルガーの歓声に続き、後ろの子どもたちも手を叩いた。
あたしも、初めて派手っぽい魔法の使い方を見て、ある意味感動だった。
加えて、ロミルダたちのような大人にとっても、こうした火を屋内で飛ばすことに警戒はないらしい。まだ小さな子どもたちに見せたり、試させたりすることにためらいもないようだ。
それだけ、魔法が身近にあるということなんだろう。
それに。
せっかくこうして見せてくれたものに、ケチをつけては申し訳ないのだけれど。
昨日父が説明してくれたことにまちがいはなく、危険を覚えても不思議はない火魔法でさえこの程度、たいして威力がないので警戒の必要もないということらしい。
石壁と土床の空間に飛ばす程度なら何のまちがいも起きようがない、ということだ。
実際、今し方火が衝突した石壁には、何の痕跡も残って見えない。離れて見る限り、ちょっとした焦げさえもつけることがなかったようだ。
――凄いような、凄くないような……。
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