22 説明と検討 2

 今回の狩りは、三日間という予定にしていた。

 森の中の害獣の数をある程度減らして、村人たちは春の農作業に入る。

 そういった作業のかんも、ライナルトは村の周囲や森の中を警戒して回る。

 例年村が害獣に襲われる期間は、ほぼ畑の種まきが終わる頃までだ。その後もまったくないとは言い切れないが、おそらく森の中に獣の食料となる実りが足りてくるのだろうと思われる。

 今回ライナルトが村長から依頼されたのもおおよそそのくらいの時期までで、その後の身の振り方は自由ということになる。

 とりあえず当初ライナルトが目指していたのは生れ故郷の領だったので、何もなければそちらへ向けての旅を再開するつもりにしていた。

 とにかくも狩りの三日目、この日の様子を見て村人たちもライナルトも今後の予定を判断することになっている。

 森の奥に進んで、一同耳を澄まし、周囲の気配を探り。

 頷きながら、オイゲンがライナルトの横顔を見た。


「大きな獣の気配はないな。昨日の熊を狩って、もうこの辺まで下りてきているのは終わりかもしれねえ」

「そうかもしれないが、もう少し奥まで調べてみないと安心もできないな」

「ほんの四五年前まではこの辺一帯、狐や鼠、兎ぐらいしかいなくて、安心できていたもんだがなあ」

いのししや熊はいなかったのか」

「おお。奥の山にそんなのがいることは分かっていたんだが、滅多に下りてくることはなかったのさ。本当ならあいつら、山の恵みで余裕で生きていけるはずなんだ」

「それがここ数年、毎年下りてきているってことなんだな。山の中の環境が、何か変わったんだろうか」

「そこが分かんねえのさ」


 マヌエルの返事に、四人みんなで頷いている。

 これまでは今いる近辺の害獣を減らす、言わば対処治療のようなところを考えるので手一杯だったわけだが。その目的をある程度達して、ようやくその先、山の奥まで考慮する状況が生まれてきた感覚だ。

 ふうむ、とライナルトは唸った。


「木の実などの実りが少なくなったか、猪や熊さえ脅かすような脅威が生まれて、否応なくこちらへ移動してきているのかってところか。南の方で魔狩りの仕事をしていて、そんな話を聞いたことがあるぞ。強い魔獣が住処すみかを変えたので、それを恐れて他の獣たちが移動を始めたっていう」

「山をいくつか越えた向こうには、恐ろしい魔獣が棲んでいるっちゅう話だ。言い伝えぐらいにしか聞かないが、見上げるような大きさの化けもんだという」

「そんなのが移動してきているってことだと、たいへんな事態だな」

「考えたくもないわな、そんなこと」


 顔をしかめて、オイゲンは身震いして見せた。

 他の面子も、一様にしかめ顔だ。


「この村に現れたかもしれない魔獣らしきものってのは、まさかそんなのじゃないんだよな」

「おお。はっきり見たわけじゃないが、夜闇の影程度で、人とそれほど変わらない大きさだったっちゅうからな。それにしても熊とかとははっきり違う、見たことのない格好っちゅうんで、魔獣じゃないかって警戒してるわけさ」

「そんなのが実際いるのなら、確認するまでは安心できないな」

「まったくさあ」


 一昨日の窪地から、この日は昨日と別の方向へと山道を辿った。


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