2 入村と転住 2
「しかしこんな、素性の知れない者を信用して取り引きを持ちかけるなど、いいのかい? 赤ん坊などを連れて人がいいと見せかけ、油断させたところを開き直って村の金目のものを奪う、なんてことも考えられるぞ」
「お前さんの腕ならおそらく、赤ん坊で油断させるなんてことをしなくても、村の者を皆殺しにできるだろうさ。この村に、たいして価値のあるものなどない。せいぜい冬の間の食糧を奪うってぐらいだろうが、賭けてもいい。食糧を奪ったとしても、お前さんだけで他の者の助けを借りずに自分と赤ん坊を飢えさせずに冬を越えるなど、無理な話だ」
「痛いとこをつくなあ」
がりがりと、ライナルトは頭をかいた。
言われる通り、自分一人を食わせるにもたいした料理の腕など持ち合わせていない。
その上まだ乳離れも当分期待できない子を抱えて、どう世話をすればいいのか途方に暮れる思いなのだ。
「村の中に空いている家があるので、住まいとして提供しよう。去年の春に魔獣に襲われて、住んでいた夫婦が二人とも亡くなったんだ。家自体に壊れたところなどはねえし、最低人が住んでいくもんは残っている。赤ん坊を育てるに当たって困ったことなどあったら、うちの嫁に協力させる」
「何とも至れり尽くせり揃えてくるな。しかし山の獣狩りか、手伝えないものではないが、赤ん坊がいるんだ、泊まりがけなどは無理だぞ。日帰りにするにしても、一人にするのはあり得ない」
「泊まりがけにはしないさ。日中出かける間、うちの嫁が預かるか、他の家の子どもとまとめて誰かが面倒を見る。一緒に山に入ることになる男たちも、子持ちだからな」
「うーむ」
「この冬を過ごす食糧や衣類などは、無料というわけにゃいかんが、提供できる。あと都合がいいことに、村外れにチャマメヤギをそこそこの数飼育している牧場がある。ヤギの乳は人の赤子にも飲ませられるから、一頭乳ヤギを売ってもらえるように頼んでやる。家で飼えば、乳離れまで何とかなるだろう」
「本当に至れり尽くせりだな、おい」
「真剣に、お前さんに頼りたいのさ」
「なるほどな」
老人の勢いに負けて、とりあえずしばらくここに留まることを承諾していた。
この夜は土間の隅を借りて、赤ん坊を抱いて眠る。
一晩中囲炉裏の火は残しているので、かなり寒さはしのげた。
自分は元の仕事柄、野営や粗末な小屋での宿泊などはしょっちゅうだったので、この程度は苦にもならない。ただ乳飲み子のことを思うとやはり、屋根のある下で休むことができるのはありがたかった。
翌朝は、雪も止んでいた。
村の暮らしに必要なことをいくつか教えてもらいながら、自分も子どもも朝食をさせてもらう。
その後ホラーツに連れられて、村の山側端の家まで雪をかき分けていった。
一年近く空き家だというが、確かに造りはしっかりしていてほとんど雪の吹き込みも見られない。雪国の家なのだから、見た目粗末でも防寒の配慮はされた石造りになっている。暖炉に薪を燃やすと。徐々に家の生気が蘇るようだった。
村長家の嫁ロミルダと村の若者二名に手伝ってもらい、家の掃除をすることができた。
このドーレスという村は全部で七戸で、住人は二十六名。こうして顎で使えるロミルダより年少の成人した男は、二人だけなのだという。
ホラーツの言う通り村民は皆歓迎の様子で、食糧や赤子の必要品など、廉価で譲ってもらえた。
さらに村長の紹介で牧場を訪ね、乳ヤギ一頭を売ってもらえた。
牧場は春の獣たち襲来時には格好の標的になるので、子ヤギや妊娠中の雌から優先して厳重に護ることになるが、数多い雄や出産済みの雌のうち何頭かは諦める、と言うより囮として犠牲にしなければならない事態にもなるらしい。そういう中の一頭なので、譲ることに問題はないという。
それでもこれはやはり、安くない買い物になった。魔狩人として長年やってきた稼ぎを相当所持してはいたが、こうした生活必需品の購入でほぼ半減したことになる。
そうして元魔狩人の大男と乳飲み子、とりあえず二人の越冬の準備を調えることができた。
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