第一章 第七話

 時折すれ違う生徒が皆、祠宇を見る。


 容姿も人格も併せて祠宇は人の目を集めるし、人に好かれる。中学時代までは運動部だったのも相まって中学時代、秋哉は見知らぬ女生徒に相談を受ける事が多かった。……祠宇は全て断ったが。



「誘ってくれて有難う。今日は早かったんだね」

 祠宇の視線は秋哉に集中している。

「まあね。一度目が醒めたっきり寝れなくなっちゃってさ」

 枸杞との事を話す気はあったが、今は祠宇に気遣わせない為にも秋哉は黙っておく事にした。嘘がばれて喧嘩になっても困るし。秋哉としては出来るだけ祠宇相手に嘘は吐きたくないのだが。


 祠宇は一度だけゆっくりと瞬きをした。


 嘘を見抜かれたのは秋哉の方でもわかった。祠宇は嘘を咎めず、話を続ける。

「あるよね。寝ようと思う程醒めていく。逆もそうだよね。醒めようとする程……ね」


 中庭の自販機で秋哉と祠宇が購入物を選んでいると遠くで、低い男の声がした。祠宇を呼んでいる。秋哉達の同級生だった。オカルト研部員でもある。


「……呼ばれてるよ」

「僕……行くね。一緒に帰れる、迎えに行ってもいい?」

「待ってるよ。いつでもいい」

「目処がついたら教えるね」

 手を振って、祠宇は相手の名前を呼びつつ、走って行った。部長と祠宇、秋哉のを合わせて三本、飲み物を買うと秋哉は別棟へ向かった。オカルト研はいがいと忙しい。早朝に来て放課後ぎりぎりまで居残る生徒も多い。


 場所も部室を起点として学園内の彼方此方を勝手に移動し、野外でのフィールドワークも多いので、常に慌ただしい。

 学園側も問題を指摘しようにも一点に留まる時間が短いので、歴代の部長が譲り受ける詭弁技術で今も叱責のみで済んでいる。


「おお。秋哉君。よく来た。あの女は元気かね」

 オカルト研部室に秋哉が再度訪れると、オカルト研部長が丁度、黒幕の外へ出て来る所だった。あの女とは文芸部部長の事である。昨日会っただろうに。


「ドウセ今日も来ているんだろう。受験生を全うして欲しいものだ」

 そう言う部長の顔は嬉しそうである。


 オカルト研部長と文芸部部長、そして新聞部部長は価値観の合致によって手を組む盟友だった。一人は研究、一人は創作、一人は取材の為、日々内申を下げ合っている。

 狭い学園内のルールを壊し、常識を破る……を飛び越し芸術とも娯楽とも取れる行動。むしろ学園内故だ。


 学生である事、子どもである事の特権を利用している。生徒達に部長達の行動が好かれ、それどころか手まで借りる事が出来るのは、新聞部による扇動によるところが大きい。娯楽の少ない学園では、たった一枚の新聞で読者を煽る事など、容易いのだ。


「秋哉君と話したいのは山々だが体育館裏へ行かねば。……祠宇君に。ああ了解した。確かに頼まれたよ」

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