第一章 第四話
玄関先で、時間を訊いた。
玄関の扉を開けると、枸杞は照明を点け居間へ続く扉を開け「二十四時。」と時刻を読み上げた。
「ああ、じゃ、終電は間に合わないな」
ふと秋哉が呟くと枸杞はぎょっとした顔で、
「今から出掛けるの」
「家に帰るんだよ」
至極当然なこと答えるように秋哉は言う。
「家はこの近くだって言ったじゃないか」
「本当は電車で二つ先」
今嘘を吐いても仕方が無いので、秋哉はキッパリと言った。
「遠い」
呆然とした声だ。
「まあ、何とかするよ。今までも何とかしたしね」
何度か今日のように終電を逃したことがある。冬也の店へ行った時だ。兄の家は、学園へ行くにも、兄の店へ行くにも電車が要る。
冬也は電車通勤を楽しんでいて、店が終わると始発で帰ってくる。
タクシーだとか、人の車だとかを使って帰ってくる日も多いが、秋哉としては店の近辺か学園の近辺の家を選んで欲しかった。
閉店後、店で始発の時刻が訪れるのを片付けながら待ち、帰れば夕方まで眠れる冬也はいいが、昼間授業がある秋哉にとって終電を逃すのは徹夜を意味した。
まあ、教師に追い出されるまで学園に居残って、その後もフラフラと外へ出ている秋哉に一番問題があるのだが。
兄との関係は常に良好で、勿論、家を嫌っている訳ではちっともない。だからこそ問い詰められると面倒なのだ。
大抵、何か理由がある前提で話が進められるので、本当の事を言ってもまともに取り合ってもらえないことの方が多い。
学園への通報・補導は困るので理由は無い、と訳を話すと枸杞は、
「だとしても。夜を越す当ても無いのに帰せないよ。幸い部屋は幾つも空いているから。入って」
と有無を言わさぬ声音で言った。
返答も聞かず枸杞は家の中に入ってゆく。秋哉は図々しいが押しには弱い質で、何も言わず枸杞に従い、家へ上がった。
秋哉としても、助かる話ではあるのだ。
「本当に良いの」
ちょっと弱気になって、子どもっぽい顔で秋哉は縁側を進む枸杞の背中へ声を掛けた。
足元は暗いが、見知った場所だからか枸杞の足取りはしっかりと、確信に満ちている。
「……人が居ると、僕も嬉しいしね」
立ち止まって秋哉に微笑み掛け、枸杞は空き部屋の障子を開ける。
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