第一章 第二話
ぐったりと目を醒ました。
家へ帰る前に軽く眠ろうと祠宇の家で横になり、眠ったはいいものの、秋哉は却って疲れた気がする。
眠る前の頭の中のぐるぐるがそっくりそのまま目覚めた直後も続いている。
視界には秋哉を見下ろす祠宇の姿があった。ぼんやりとした情欲の色が映った表情をしている。何の気無しに秋哉は時間を訊いた。
すると祠宇はびくっと体を震わせ、今度ははっきりと現実味のある顔で、
「二十三時ちょっと前」
と答えた。
うーと呻きながら体を起こすと秋哉はかんまんな動作でコートを着込んだ。眠ってからあまり時間は経っていないが、二度寝したらもう朝まで目覚めそうになかった。
明日は休日だが文学部へ顔を出す予定で、課題も今日の内に始末しておきたい。行動の手順を頭の中で描きつつ、秋哉はアイス珈琲を祠宇にもとめた。
「泊まっていけばいいのに」
眠気覚ましに冷たい珈琲を啜る秋哉の前で祠宇は提案した。
眠る前にも言われたが、秋哉は一度断ったのだ。秋哉は眠るのが遅いし、休日は何時も昼前まで眠っている。
規則正しい生活をする祠宇に付き合わせるのは酷だし、人の家だからと言って早く起きる自信も無い。平日の夜更かしがいけないのはわかっているが元々、秋哉も冬也も揃って朝は苦手で、さんさんと降る陽を浴び続けるだけでノイローゼ気味になる。
夜に外出をするのはすりへった神経を戻す為でもあった。
「わるいし、帰るよ」
「でも……遠いし」
説得をしようと試みるも、祠宇はそれ以上の言葉が出てこないようだった。
「遠いって程じゃないよ。それに、人の家で昼まで眠る訳にもいかないだろ。御馳走さま。美味しかったよ」
コップを置き、
「それに」
と秋哉は祠宇の顔を包み、親指で目の下の隈をなぞる。
始めは無かったのを考えると、隈が出来たのは秋哉の退屈しのぎに付き合った所為だろう。
「祠宇も早く寝た方がいい。」
くっと祠宇は喉を打ち鳴らす。頬から手を離すと祠宇はほっとしたような、辛いような顔をしてじっとりとした目で秋哉を見た。
「……うん」
ちいさく呻くように祠宇が声だけで頷く。
「じゃあね、見送りはしなくていいから。早く寝るんだよ」
手をひらりと振って秋哉は祠宇の家を出る。
ぐっと体を伸ばした。体を伸ばし終えると秋哉は、ちらりと目線だけで隣家の、秋哉が生まれた家の電気が点いているのを確かめ、帰路へ着いた。
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