第33話 なんやかんやでファミレスデートが楽しい

 映画のあとはホールでクラシック音楽を聴いて、ふたりの時間を堪能した。


 そしてファミレスに入って、向かい合って食事をとっている時のことだった。


「見て見て、潤一郎くん!」


 詩乃はドリンクバーを取ってきて、テーブルに置いた。そのコップには二本のストローが刺さっており、少々まぬけな絵面になっている。


「天川詩乃特製、カップル限定ドリンク!」


「……うん」


「反応うすーい!」


 ぷんすかと怒る詩乃だったが、ストローを俺の方に向けてくる。


「とりあえず飲みましょ?」


 まあ、むげにすることもないかとストローを咥えた時だった。


 詩乃も同タイミングでストローを咥えてきて、一気に顔が近づく。


 綺麗に整えられた前髪。きめ細やかな肌は雪原を思わせる。そして赤みがかった黒い瞳は俺の視線を釘付けにする。


「潤一郎くん真っ赤でかわいい~」


「し、詩乃だって赤くなってるぞ」


「え、ほんと?」


「ウソに決まってるだろ」


「も、もうっ、潤一郎くんのバカっ」


 そう照れるものだから本当に頬が赤くなった詩乃はそのままジュースを飲み始める。ふたりで急いでストローで吸い上げると、いっきにカラになってしまった。


 一気にジュースを飲んだせいでちょっと息苦しい。


「はぁはぁ、そういえば潤一郎くんにやってほしいことがあって」


 そう言って詩乃がスクールバックから取り出したのは、リモコンだった。


 ダイヤル式で回せるピンクで小さな……。


「って、これ⁉」


「う、うん……」


 先ほどより頬を朱色に染めて、詩乃はうつむいた。


「潤一郎くんが好きな時に……私をいじめたいときに、それ使って」


「いやいやいやいや!」


 無理でしょ⁉


 そんな変態プレイ、高校生はしないって! 


 っていうか制服デート何も関係ないし!


 ツッコミが追い付かないが、この変態っぷりは天川詩乃とデートをしているんだなと実感できる。


 セーラー服一枚通して高校時代の天川詩乃に触れている、しのではないのだ。


 そのことがとても嬉しかった。


「理想は店員さんが料理を運んできたときにダイヤルを回してくれることなのだけど……お願いしてもいい?」


「そんな申し訳なさそうに言うくらいなら、心の中に秘めておこうよ!」


「でも、スリルとドキドキがたまらないと思うの」


「本当にやりたいのか……?」


 そう聞いた時だった。


「お待たせしました~」


 女性の店員さんが皿を器用に腕に乗せて、料理を運んで来た。


「こちらチョリソーのお客様」


 手を上げて、俺の前に置いてもらう。


 だが、俺の視線は詩乃に向いていた。


 店員さんの視線が俺の方に向いているのをいいことに彼女は制服の胸当てを外して、すこし谷間を露出させたのだ。深い谷間の入り口が見えているのが何とも煽情的で、目を離せない。


 詩乃の谷間どころか胸をがっつり見たことは何度もある。だが、セーラー服とのコンボはさすがに強烈すぎる。男のロマン、背徳だ。


『ってそうじゃない! はやく胸当てつけなおせ!』


 店員さんが俺のところに料理を置いている間に早くしろ!


 間に合わなくなっても知らんぞ!


 そんなアイコンタクトを送ると、詩乃からもアイコンタクトが返ってくる。


『だったら、ダイヤル回してよ』


『関係ないだろ!』


『じゃあ、ここで制服脱ぐから。彼氏に脅されたって泣くから』


『ああ! もうっ!』


 こいつホント金持ちでいいとこ育ちなのな! わがままでしょうがない。


 諦めた俺はダイヤルをかるく回す。


「あっ、んぅ……!」


 その瞬間、詩乃は甘い声を漏らしながら胸当てを付けなおし始めた。


 だが、刺激のせいか、手つきがおぼつかず、うまくできない。


 俺の方に向けられた熱っぽい視線は恍惚としたもので、『もっとして』と言わんばかりの、おねだりにも見えた。


「コーンスープのお客様~」


 詩乃が震える手を上げる。


 なんとか平静を装っているが、口を開ければ嬌声が漏れてしまいそうなのか、ただ手を上げるのみだった。


 そんな彼女を見ていると、俺にも少し火がついてしまう。


「ひゃうんっ⁉」


 ダイヤルを半分ほど回すと、詩乃は可愛らしい声を漏らし、股を手で押さえる。


「お、お客様、どうかされましたか?」


「い、い、あひぃっ! んっ、な、なんでもない、です」


 顔を伏せてしまった詩乃だが、俺はさらにダイヤルを回す。


「んんっ⁉」 


 体を縮こまらせて快感に耐える詩乃だが、額に汗をかき始めていた。


「お、お客様、お体が優れないようでしたら……」


「だ、大丈夫、です、からっ」


 なんとか手で制した詩乃を見て、店員さんは心配そうにしつつも厨房に下がっていった。


「だからやめとけって言ったのに」


「だ、だってぇ……」


 目を潤ませた彼女は我慢の限界といった様子だった。


 詩乃と高校時代にデートをしていたらこんな感じだったのだろうか。


 ……心臓がいくつあっても足り無さそうだ。

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