第32話 カップル割ってめちゃくちゃ恥ずかしい
そんな朝を終えて、天川とは別に寮を出て、いまに至る。
部活終わりの彼女を迎えるというシチュエーションの制服デートロールプレイングだ。
「どこか行きたいところあるかしら?」
「うーん、特にないかな。詩乃は?」
「私もないわね。潤一郎くんといっしょにいるのが一番だから」
そう隣で微笑む彼女は夏の陽ざしより眩しい。
結局、この暑さをしのぐためということもあって、映画館に入ることになった。
「本当はレイトショーなんかもロマンチックでよかったのだけど」
シアターに入って席についた天川はそうは言いつつも満足げだ。
「制服デートで映画館ってだけでも、すごくいいわね」
それに、と詩乃は声を弾ませる。
「カップル割っていうのがまたいいじゃない」
今日は運よくカップル割をやっており、その恩恵を受けることが出来た。だが、カップル割を受けるというのは、俺たちはカップルです! と受付に言っているようなもので、かなり恥ずかしい。
「映画館って詩乃にしては大人しめの選択だよな。もうすこし刺激のあるものにするかと思ってた」
「だって今日の映画、すごく参考になりそうだなって」
詩乃はいつだってこうだ。前を向いて、子供みたいに純粋で一生懸命。
そんな彼女と見た映画は正直よく分からなかった。いいのか、悪いのか、そもそも面白かったのか、つまらなかったのか。
薄暗いシアターの中で、詩乃とつないだ手の感触を噛みしめているだけで上映時間は終わってしまったのだから、映画に集中できるはずもなかった。
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