第29話 妹を守護らねば……

「おにいちゃん~。しの、のどがいがいがする~」


「おー、よしよし。お兄ちゃんが治してやるからな。何でも言ってみろ」


 枝毛一つない『しの』のさらさらな髪を撫でる。髪をすくたびに気持ちよさそうに目を細める我が妹がかわいい。かわいすぎる。


 きっかけは天川のアイデアだった。


「そもそも私じゃなければ何でもいいの?」


「いや、恵莉奈とも別れてるしな……」


「うーん、いっそのこと、発情の対象外っていうのもどうかしら?」


 ということで、天川はもこもこでウサギの耳が付いた寝巻を着て、妹の『島崎しの』が爆誕したわけだが。


「おにいちゃんのおてて、大きい~」


 まるで本当の妹(小学三年生ほど)のような甲高い声、幼い言葉遣い。


 布団で体が隠れているのと、この薄暗さで顔が見えにくいことも相まってか、もしかしたらしのは本当に俺の妹なんじゃないかと錯覚してくる。


「おにいちゃんのよだれ飲んだら、喉なおるかも!」


「うーん、変態妹すぎる……」


 そして思いのほか、俺は『しの』を受け入れていた。


 いまのところ吐き気も頭痛もないのは、『しの』を拒絶していない証拠だ。


 結果的に天川の言った通りになってしまったのが癪だが……。


「じゃあ、おにいちゃんにぎゅ~ってしてほしい!」


「わかったわかった」


 詩乃を俺の胸に抱き寄せると、我が妹は嬉しそうに喉を鳴らす。


「うみゅ~……おにいちゃんのにおいすき~……」


 うっとりと、俺の胸板に頬擦りをしてきて、幸せそうにする。


 それだけですめばよかったのだが、しのの脚が俺の脚に絡みついてくる。そして腕を俺の背中に回してきて、あっという間にホールドされてしまった。


「お、おい」


「だめ……?」


「も、もちろんいいぞ!」


 捨てられた子猫みたいな上目づかいで見つめるんじゃありません! そんなの、どんなお願いでも聞いてしまうでしょうが!


「えへへ~、おにいちゃんあったか~い」


「男の子は女の子より筋肉があるから、体温が高いんだぞ~」


「うーん、しの、難しいことは分からないけど、おにいちゃんのごつごつは好き!」


「おー、そうかそうか~」


 また頭をなでてやると、しのは気持ちよさそうに目を細める。


 いかん、なにかに目覚めてしまいそうだ。


 たしかに俺の性癖を考慮すると、ロリ妹なら発情はしないかもしれない。


でも、犯罪臭がするこのシチュエーションのどきどき、天川の演技の上手さ、密着度、いろいろな要素が相まって庇護欲をくすぐられるというか……なにか扉が開きそうだ。


 そんな俺の懸念をよそに、しのは頬を膨らませる。


「ど、どうした、しの?」


「おにいちゃん、この間知らない女の人と仲良さそうにしてた!」


「あ、えっと、どんな人かな?」


「きらきらした髪で、お肌の白い人!」


「あ、あー、恵莉奈のことな。恵莉奈がどうかしたか?」


「……おにいちゃんの妹はしのだけだよね?」


「お、おう、そりゃそうだろ?」


「……えりなって人は妹じゃない?」


「恵莉奈は友達だからな~。妹じゃないぞ」


「う、うん、よかった」


「なんだよ急に。変なこと聞いてきてさ」

「だって、おにいちゃんと一番仲良しなのは、しのなのに……えりなって人と仲良しになってた。新しい妹がよくなって、しののことはどうでもよくなっちゃったのかもって……」


 顔をくしゃくしゃにして、涙をながし始めるしの。


 かよわい姿、可愛らしい嫉妬、幼い認識と価値観。そのすべてにやられた俺は脳の回路を組み替えられるほどの衝撃を受けた。


 ……そうか、しのはまだ小学生だもんな。お兄ちゃんが構ってくれないと寂しいんだな。


「ごめんな、しの。でも、お兄ちゃんが一番大事なのはしのだからな」


「うん! うん! おにいちゃん大好き! はい、お礼のちゅー」


 しのは俺のほっぺにキスをしてくる。


 うーん、妹がいてよかったなぁ。

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