第25話 恋愛においてプライドはたいてい邪魔になる
「いつから気付いてたんだよ……」
「もちろん、最初からよ」
あのあと、恥ずかしくなった俺はその場を逃げ出そうとしたが、天川にしっかりとホールドされてしまい、逃げ場が無くなっていた。
結局、なすすべもなくなった俺は天川と共にバス停のベンチに腰をかけていた。
あたりはだいぶ人もいなくなっていて、ほぼ無人状態。あとは最終バスを待つのみとなっていた。
ちなみに恵莉奈と圭吾は間違って他のバスに乗ってしまい、俺たちだけが取り残された形だ。
「圭吾がメイクとか色々やってくれてさ。割とうまく変装できてたと思ったんだけどな」
「でも、中身があなたじゃあ、ね」
「なんだよそれ……。そんなに分かりやすいか?」
「ええ、すぐに準くんのこと好きだなって思ったもの。そんなのあなたしかありえない」
「ほんとになんだよそれ……」
気恥ずかしくなって空を見上げる。
夏の夜空には星々がきらめいていた。ひとつひとつが眩い輝きを放ち、特別な意味を持つ。でも、そんな宝石箱みたいな空よりもとなりの少女の方が輝いて見えた。
「今日は私が心配で来てくれたんでしょ?」
「なんのことだか。自意識過剰じゃないか?」
「そういう捻くれた性格、変わらないのね」
楽しそうに笑う天川を見ていると、細かいことはどうでもよくなった。それだけこの笑顔に救われてきた。
筆を折ってから腐っていた俺を支えてくれたのは間違いなくこの笑顔で、天川で。
でも、そんなこと言えるわけもなくて、かわりに疑問を投げかける。
「そういえば、なんでさっきは飲み比べで酔わなかったんだよ。あんなに飲んでたのにさ」
「ああ、あなたたちがトイレに行ってる間にピッチャーの中身をぶどうジュースに変えておいたの。どうせ飲まされるだろうなって思って」
「……そのくせにこれ以上飲めないとか演技してたのかよ」
「だってそれまで飲まなかった女がいきなり飲み始めたら怪しまれるでしょ?」
「本当にウソの上手い女だな」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
また楽しそうに笑ってくれた。
天川は俺といるとよく笑う。普段はあまり表情を変えないくせに。
さっきチャラ男たちと飲んでいたときなんかがそうだった。愛想笑いもしないで、淡々と受け答えをする。
でも、それがたまらなく嬉しい。
俺じゃなきゃダメなんだと伝えてくれているみたいだから。
「でもさ、飲み比べをする前に天川酔ってただろ? ああいうのはよくないよ。男はなにをするか分からない」
そこまでの量を飲んでいないが、すぐに酔いが回る天川が心配だ。
「べつに誰と飲んでも酔うわけじゃないわよ」
「でも今日は知らない男が二人いただろ?」
「だって島崎くんがいるから安心かなって」
「なんだよそれ……」
俺がいるからチャラ男たちのボディタッチは見逃していたというのか。
頼ってくれるのは嬉しい。
でも、できれば俺以外に触らせないでほしい。勝手に振ったくせに、身勝手な独占欲はずっと消えない。
「はぁ……」
なんて返したらいいか分からず、また星空を見上げる。
雲に隠れたわけでもないのに星は何も見えない。。
ただ、俺の隣の光が眩しすぎて、星の灯りが目立たなくなってしまっているのだ。
「それで? 島崎くんは私と一晩過ごしてくれるのかしら?」
「断る!」
プライドって邪魔だ。
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