第22話 合コンがはじまる前からカップルが出来てるのって反則じゃないですか?

「マジで準くんサイコーでさ~。あーしたちマブダチなんだよね~。ね、準」


「あたぼーよ」


 恵莉子は俺の正体をばらすようなヘマはしない。隣の畜生悪友とは人間の出来が違うのだ。


「でさ~、準~。今度のデートはいつにする~」


「ぶふぉっ⁉」


 唐突な爆弾発言に飲みかけの水をつい噴き出してしまった。


「あら? 恵莉子と準くんは付き合ってるのかしら?」


「え~、付き合ってはないんだけど~。満更でもないって関係っていうか~」


 もじもじと身をよじる恵莉子を見て、チャラ男二人が反応した。


「ひゅーひゅー、熱いね~」


「もうお持ち帰りしちゃえよ、準~」


「い、いや、恵莉子とはそういう関係じゃないっていうか」


「え~、準~。あーしとは遊びだったの~?」


 恵莉奈! お前だけは味方だと思ってたのに!


 いますぐ反撃に打って出ようとしたが、恵莉奈は俺の腕を抱き寄せて胸を押し当ててくる。


「ねぇ~、いまから二人でホテルいこうよ~。あーし、我慢できないかも~」


「まて、なんで合コンに参加してるか分からん設定になってきてるぞ!」


 天川の前で見せつけるようにいちゃつけるのがそんなに嬉しいのか⁉


 しかし、とうの天川は満足気であった。


「なるほど、合コンはこうやってお持ち帰りするのね」


「逆だから! ふつう男が女の子を持ち帰るんだからな⁉」


「そうよね。お酒飲ませてホテルに連れ込むのよね」


 それお前な!


「いいインプットになったわ。ありがとう」


 そう満足気にワインに口をつけた天川にチャラ男二人が興味をひかれたようだった。


「あれ~? インプットって、天川ちゃんはなにか創作活動してるの?」


「オレも気になっちゃうな~」


「ちょっと漫画描いてるだけよ」


「すっげぇ~! 俺、天川ちゃんの漫画見てみたいかも」


「このあと天川ちゃんの家行って二次会やっていい? そこで漫画見せてほしいわ~」


「えー、どうしようかしら」


「いいじゃんー。準と恵莉子ちゃんはカップル成立したんだしさ。俺たち残った四人で飲み直そうよー」


 その言葉にも天川ははっきりとした態度を示さない。


 もしかして天川、まんざらでもないのだろうか。肩に軽く触れたりしてくる男たちを特に気にすることなく、そのまま会話をしているし……。


 なんだよそれ……。ちょっとムカつく。


 勝手だって分かってる。


 理由も話せず天川を振ったのは俺だ。


 でも、彼女に触れられるのは俺だけで、俺じゃなきゃダメで。俺を必要としてほしくて。


 そんな思いが止まらない。


「ってかさー、天川ちゃん全然お酒のまねぇのなー」


「飯も全然食ってないしさ。体調わりぃの?」


「いえ、ちょっとダイエットしてるから」


「えー、そんな必要ないように見えるけどなー」


「その、コスプレとかもするから。体型維持も大変なの」


「えー! まじか~。天川ちゃんのコスプレ見てぇなぁ」


「オレもオレも~。やっぱし、このあと天川ちゃんの家で二次会させてくんねぇかな? ついでにコスプレも見せてほしいさ~。絶対可愛いっしょ~」


 隙あらば家に上がろうとするチャラ男たち。


 天川もそんな下心丸見えの男には靡かないのか、徐々に態度が冷めていく。それでも諦めないあたり、こいつらはかなり慣れていると見ていい。


 その後もチャラ男たちの天川への質問攻め、ボディタッチは続き……。


「すまん、ちょっとお手洗い行ってくるわ」


 俺はよれよれの足取りでトイレの個室に駆けこんだ。


 吐きそうだった。


 酩酊感や吐き気ではない。チャラ男たちへの嫌悪感と、嫉妬、天川への好きな気持ち、独占欲。ぜんぶごちゃ混ぜになって、胃の中から出てきてしまいそうで。とても苦いそれは喉元までせり上がって来ていた。


 呼吸も荒くなっていたが、しばらくしてようやく息を整えられた。


 個室から出ようかという時だった。


 トイレに入って来た二人組の騒がしい声が聞こえる。


「いや~、やっぱ天川ちゃんっしょ~」


「恵莉子は準とデキてるっぽいしな~。圭子も悪くねぇんだけど、やっぱ天川ちゃんの胸だよな。あれ、絶対Gカップ超えてるって」


 声や話の内容からして、あのチャラ男ふたり組だった。


 さきほどの明るい青年という感じではなく、ゲスな声色を隠そうともしない。


「でさ、どうやってお持ち帰りしちゃうよ? 天川ちゃんの家で二次会は無理っぽいし、適当に酔い潰させちまうか?」


「だな~、あとは俺たちが家まで運ぶって言って抜け出してホテルでいいっしょ」


 ゲラゲラと気色の悪い笑いをする二人組に先ほど以上の吐き気がしてくる。正直、口の中まで吐しゃ物が来ていたほどだ。


「天川ちゃんのおっぱいもすげぇけど、中も絶対に気持ちいいよなぁ」


「いいとこのお嬢様って感じもたまらねぇ。コスプレさせてやりてぇ~」


「いやー、今日は来てよかったわー。天川ちゃんみたいな子をお持ち帰りできるとか最高っしょ」


「はやくやりてぇし、サクッと酔わせちまおうぜ」


「だな。世間知らずって感じだし、よゆーっしょ」


 下品な笑いをしながら、ふたり組はトイレから出ていった。

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