第3章 リスタート
第21話 サンディエゴ動物園
「う~! ちゃんと飲んでるの~⁉ そんなの水じゃない~!」
八王子駅前の居酒屋で天川は酔いに酔っていた。
薄手のニットにフレアスカートという、天川らしい服装は彼女を際立たせ、上品な印象を抱かせるが、このテンションでは台無しだ。
彼女の酒癖の悪さはひどいものでダルがらみはうざいし、やけにハイテンション。
居酒屋の個室で六人席。天川の両隣にはチャラ男がふたり。彼女の対面に座る俺の左隣に恵莉奈、そして右隣には女装した圭吾だ。
そんな圭吾こと圭子が耳打ちをしてくる。
「なんで俺は女装させられにゃならんのだ!」
「いいじゃないか、似合ってるぞ。さすが部長だな」
「褒めればいいってもんじゃねぇからな!」
だが、実際よく似合っている。茶髪のボブカットに、よく乗ったメイク。顔の作り自体は元々いいから、かなり美形に見える。
圭吾は創作同好会では服飾や小道具づくりをしており、かなり手先が器用でメイクにも詳しい。そのスキルがこんなところで生きるとは思わなかったが。
「つーか、なんでこんなことになってんだよ!」
きっかけは八王子の飲み屋で開かれる合コンに天川が行くという情報を恵莉奈がキャッチしたことだった。なんでも、これもインプットだとか。
最初は無関心を決め込んでいた俺だったが、酒癖の悪い天川が何かしでかすのではないかという不安もあって変装をして参加することにした。
だが、俺だけでは陽キャの巣窟の合コンでは厳しいだろうということで、恵莉奈も変装して参加。ついでに部長として天川を監視させる名目で圭吾も変装させて参加。
ドタキャンもあって、今回の六人になったわけだが、圭吾はいまだに不満そうだった。
「なんで俺たちは変装してるんだ?」
「ノリノリで女装していまさらかよ……」
「乗り気じゃ無かったわい!」
別にそのまま参加してもいい。だが、天川に「あれ~? 私が心配で合コンに来たの?」なんて言われたら癪だ。
じゃあ、俺だけ変装すればいいかというと違う。
恵莉奈と圭吾がそのまま行ったら、隣に座っている俺が変装しているとばれてしまうかもしれない。
というわけで恵莉奈はポニーテールを降ろし、カラコンをつけてメイクもいつもと違って濃い目にしてマジギャルに大変身。
俺は前髪を垂らしてとにかく目が見えないようにして、奇抜な服装やメイクで誤魔化した。
俺たちの変装も急ピッチで圭吾にやってもらったわけだ。
「ってか~、詩乃ちゃんかわいい~」
「え~、恵莉子こそ~」
この通り、恵莉奈は恵莉子として参加し、すっかり天川と仲良くなっていた。それができるなら、普段からふたりでよろしくやってくれませんかね……。
「そういえば、殿方たちはどこ大学出身でして?」
お嬢様言葉の圭吾もとい圭子、非常に気持ち悪い。二日酔いの方がマシなレベルで。
圭子の質問に、俺たちの向いの男子ふたりが答えていく。
「俺は慧光大学!」
「オレも慧光大学!」
「あら~、高学歴ですのね。頭のいい男の子って尊敬しちゃいますわ」
気色の悪いお世辞を述べた圭子は俺に視線を向けてくる。
「そこの冴えない陰キャボッチはどこ動物園出身なの?」
「サンディエゴ動物園」
できるだけ正体を悟られないようにオーバーリアクションは出来ない。それが分かっているのか、女装させられた腹いせに圭吾が死体蹴りをしてくる。
「サンディエゴ動物園ってアメリカなのに、日本語喋れるんですのね」
「そうウホ。バイリンガル、ウホ」
圭吾、あとで絶対にしばく。
テーブルの下で拳を震わせていた俺だったが、
「あはは~。準くんって面白い人なのね~」
なぜか天川にウケていた。
ちなみに『準』は本日の俺の名前である。源氏名かよ。
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