#020 空想メソロギヰ その2

『グリエラだ。気をつけろ、奴は恐らく……』


 刹那、僕たちを押しつぶすように周囲の岩壁が迫ってきた。


『俺の存在に気がついている』


 そう言って僕と魔王の魂が入れ替わった。

 

「きゃ!?」


 頭を抑えて縮こまる柚葉さん。

 

「果たして試したのか、それとも俺ごと殺すつもりだったのか……」


 魔王が僕たちを守るように、魔力で岩壁を押し返した。


「どちらにしろ面倒なことになったな」

『どうしてグリエラが魔王に気付いているって分かるの?』

「さっきの転移魔術は俺を中心に発動していた。グリエアにそのような能力はなかったはずだから、このダンジョンの何かしらの機能を使ったと推測できるが……」


 そう魔王が言いかけた瞬間、岩壁が鋭利に突起し魔王へ突き刺さるように迫り出してきた。


「っと、こちらはグリエラの能力だな」


 魔王は体外に放出された魔術を操り、岩の突起を切り飛ばしていく。


「奴の能力は”性質付与エンチャント”。自らの魔力を流し込んだ対象を自在に操り、こうやって遠距離からチマチマと攻撃するのが好きな用心深い女よ」


 平然と喋りながら魔術を操作し岩壁を粉々に粉砕する魔王。


「これが白凪君の力……」


 驚愕の表情で魔王のことを見つめる江蘭君。


「助かったよ、ありがとう……」

「礼には及ばん」


 江蘭君には目もくれず、周りを見渡す魔王。


「居るのだろ? コソコソ隠れていないで出てこい、グリエラ」


 空間内部に響き渡る声量で、魔王がグリエラを挑発する。


「出てこなければダンジョンごと吹き飛ばす」


 手段が乱暴すぎます魔王様……。


「器を見つけられず、未だダンジョンに魂を縛られている貴様だ。そうなっては困るだろう?」


 自分に適した器を得られていない転生者リネイターは、ダンジョン内部でしかその存在を維持できない。


 それをダンジョンごと崩落させてしまおうとは、なんという荒技。

 僕にはない、魔王にしかできない発想だ。


「その魔力、その顔、その発想……見た目は変わりましたが、本当に──ああ、なんという」


 悲しみに満ちた声。

 慈愛に満ちた声。


 しかしどこか狂気を孕んだ、そんな印象を受ける女性の声が聞こえた。

 声の主が涙を流しながら僕たちの前へ姿を表す。


「お久しゅうございます」


 跪き、頭を垂れる美しい女性。


 紫色のポニーテールに、金色の瞳。

 引き締まった体をしている彼女が、”グリエラ”か……。


「我が主人、魔王──”サタン”様」


 それが魔王の名前か……。

 そういえばまだ聞いたことなかったな。


 というか、グリエラは妙に魔王に従順に見える。

 なんだって、あそこまで敵対する必要があったんだ?


「貴様は変わらんな、グリエラ」

「ずっと、ずっと貴方様との再開を心待ちにしておりました……」


 グリエラがそう言った瞬間、足元が陥没し魔王が体制を崩した。


 

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