#019 空想メソロギヰ その1

「転送魔術!?」


 江蘭君が光を目視して、魔術の正体に気づく。

 

「いけない、甘神さん! 白凪君! ここから離れるんだ!」


 江蘭君が叫ぶ。

 だが、僕と柚葉さんが反応する前に光は消え去った。


「嘘……!?」


 スマホのマップを確認しながら柚葉さんが驚きの声を上げる。

 マップではダンジョンにおける自分の位置が確認できるのだ。


「ここ……ダンジョンの、最下層だよ……」


 どうやら先ほどの転移魔術によってここまで飛ばされたらしい。


「お前のせいか……」


 瞬間、僕の中の何かがキレた。

 

「お前がやったんだな」


 江蘭君の胸ぐらを掴み、背後の岩壁に押し当てる。


「ちっ、違……」

「僕を殴って気が済むならいくらでも殴れよ」


 江蘭君の顔を睨みながら捲し立てる僕。


 自分でも自分の行動に驚いている。

 こんなに強気に出たのは初めてだ。


「でも柚葉さんだけは巻き込むな……これ以上彼女に何かすれば、殺す」

「違うって……僕は……僕は!」


 涙を流しながら訴える江蘭君。

 そんなもの眼中に入らないほどの怒りを見せる僕。


「だめだよ、優君……」


 そんな僕の頬に柚葉さんは優しく触れた。


「……柚葉さん」


 彼女の手の温もりによって僕は正気に戻ることができた。


「ご、ごめん……」


 僕は江蘭君から手を離して解放する。


「まずは話を聞いてから、だよね」

「いいや、これは僕が悪いんだ」


 地面に膝をついて謝罪する江蘭君。


「白凪君……君には今まで酷いことをした。特に昨日は酷いものだ。恥ずかしい姿を見せてしまったね」


 江蘭君は地面に頭を擦り付けて、震えた声を絞り出す。


「ごめんなさい……許してもらえるとは思っていない、けど。謝りたくて、君たちに近づいただけなんだ……」

「こっちこそごめん……」


 僕も俯きながら謝罪の言葉を返した。


「君じゃないって分かってたのに、疑ってしまって……柚葉さんに手を出さないって誓ってくれるなら、僕はもう何も怒らないよ……」

「白凪君……」


 泣きながら顔を上げる江蘭君。


「ごめん、ごめん……もう、いくら謝ったって仕方ないのに……ダンジョンの最下層から脱出する技術なんて、僕たちには……」

「大丈夫だよ」


 僕が笑って江蘭君の手を取る。


「なんとかなるさ。だから、今は立ち上がって」

「そう、かい……?」


 戸惑いながらも立ち上がる江蘭君。

 脱出できる策がないわけではない。


 どうにかできないか、魔王……?


『なるほどなるほど……貴様も怒れるのだな、小僧』

「”そのこと”は今はどうでもいいでしょ」


 今は魔王の知識と経験が頼りだ。


「お願いだから、僕たちを無事元の場所へ連れて行って」

『残念だが、それは厳しそうだ』


 ため息を吐きながら魔王が答える。


『奴が来てしまった』


 魔王がそう言った瞬間、ダンジョンの岩壁がゴゴゴゴと地響きを鳴らす。


『グリエラだ』

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