#015 白凪優の楽しい学園生活。

「今朝の報告事項は以上だ」


 重苦しい雰囲気のままホームルームが終了する。


「それと。白凪優君と甘神柚葉君は、この後私と一緒に職員室へ来るように」


 鶴見先生から呼び出しを受けた。

 メンバー的に魔王関連の話に違いない。

 

「さっきのことで怒られちゃうのかな……」


 柚葉さんが心配そうに話しかけてくる。

 

「勝手に外に出しちゃダメって言われてるんだよね?」

「だとしたら僕の責任だよ」


 意を決して、移動するために席から立ち上がる。


「怒られるのは僕だけだから安心して」

 

 柚葉さんにはそう言って強がってみせたが、僕も内心ビクビクである。

 

 叱られるの怖いなぁ……。

 嫌だなぁ……。


『何を気弱なことを考えている』


 能天気に口を挟む魔王。


「元はと言えば魔王のせいなんですけど」

『貴様、助けてやったのになんだその言い草は?』

「助けてくれなんて一言も言ってません」

『なら貴様はあのまま黙って殴られていたというのか?』

「そうすればもっと穏便に事が済んでいたはずだ」


 少なくとも柚葉さんに余計をさせることはなかったかもしれない。


『自己犠牲、か』


 ため息を吐きながら、呆れたように言葉を吐き捨てる魔王。


『勝手にしろ』

「そうさせてもらうよ」


 そんなやり取りをしながら廊下を歩いていると、鶴見先生が口を挟んでくる。


「おや? さっきのことで魔王と口喧嘩かい、白凪君?」

「はい……」

「そうか。二人の仲は悪そうには見えなかったんだが、残念だ」


 先生に魔王の声は聞こえていないはずだ。

 しかし、全てを見透かしているかのように鶴見先生は語る。


「君たちには良好な関係を築いてもらえたほうが、こちらに都合が良いのだけどね」


 しばらく歩いて職員室につく。


「こっちだ。一般の教職員に君たちのことは知らされていないからね、私たちだけで話そう」


 先生の指示に従って、隣の応接室に足を踏み入れた。

 僕と柚葉さんが先生と向かい合うように座り、話を始める。


「早速だが、まずは先日の件について改めて礼を言わせてもらおう。あの後はゴタゴタして、ロクに会話も出来なかったからな」

「そんな、とんでもない……」


 遠慮気味に答える僕。


「むしろ僕たちの方こそお礼を言わせてください!」

「そうですよ!」


 柚葉さんが続ける。


「私たちが普通の生活を続けるために、騒ぎが大きくならないよう鶴見さんたちが裏で手を回してくれたことは知っています!」

「治療も完璧でしたし……あんなに素晴らしい新居まで用意してくれて、頭が上がらない思いでいっぱいです!」

「私たちでよければなんでもやるので、散々コキ使ってやってください!」


 僕と柚葉さんが必死になって感謝の気落ちを伝えると、鶴見さんが呆気に取られた様子で話を本題に戻す。


「そ、そうか……では早速、本題に入ろう……」

「はい!」

「はい!」

「まずは本日授業で行われる予定だった、ダンジョン探索の実習なのだが……その最中、君たちには特別作戦を実行に移してもらいたい」

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