#014 イジめっ子と立場が逆転しちゃう白凪君。

「さぁ、貴様はどうする?」


 魔王が不敵な笑みを浮かべながら江蘭君に語りかける。


「猿山の大将でも、下っ端の仇を討つ程度の情はあるのだろう?」

「見下すな……僕を……ッ!」


 ブチギレた江蘭君が魔術の行使を開始する。


「ちょっと、江蘭君流石にそれはマズいよ!」

「教室で無許可で魔術を使っちゃヤバいって!」


 江蘭君を止めようとするクラスメイトに対し魔弾が発射される。


「うるさいッ!」

「まるで成ってないな」


 一瞬で江蘭君の背後に立った魔王が腕を掴んで動きを止める。


「貴様に上に立つ者としての資格はない。配下ではなく、自分のメンタルが傷つけられたことで怒りを露わにするとは……」

「お前如きが……偉そうな口を、利くな!」


 江蘭君が残った片腕でパンチを繰り出すが、魔王はそれを余裕の表情で顔面で受けてみせた。


「魔術の扱いも三流、だな」


 ピンピンした様子で江蘭君の腕を離す魔王。

 むしろ江蘭君の方が痛そうに拳を押さえている。


「そのまま言葉を返そう。貴様如きの魔力量と魔術の練度で、この”魔王”に偉そうな口を利いたのだ」


 最初のうすら笑っていた表情から、殺気に満ちた顔になった魔王。

 それに従って段々と、静かでドスの利いた声に変わっていく。


「死ぬ覚悟は出来ているのだろうな?」


 その言葉に周りのクラスメイト全員が凍りついた。


 しばらく続く沈黙。

 険悪なムードが場を支配していた。

 

「はいはい、皆さん遊んでないで席に座ってくださいね」


 しかし沈黙はある女性の一声で破られた。


「貴様は……」

 

 女性の姿を確認して、顔をしかめる魔王。


「驚いたかい? 前任の松本先生がパパ活で捕まってしまってね、今日から私がこのクラスを担当することになった」


 灰色のスーツをビシッと着こなした銀髪の長髪ストレート。

 赤ブチ眼鏡がチャームポイントの、大和撫子な和風美女。


「何人か顔見知りもいるようだが、改めて自己紹介だ」


 教卓についた彼女が、その場にいる全員に聞こえる声で言う。


「今日から、君たちを相手に教鞭を取らせてもらう”鶴見怪音”だ。皆よろしくね」

「鶴見さん……」


 魔王がすんなり中に戻って来たことで、僕が言葉を発する。


「ごめんなさい。ちょっと、暴れちゃって……」

「構わないさ。君たちは若者だもの、喧嘩の一つもするだろう」


 それにしては暴れ過ぎな気もしますが、本当に大丈夫ですか?


「しかし終われば、恨み合いっこはなしだ。ほら早く席に座って。ホームルームを始めるよ」


 鶴見さんの言うことに従って皆が席に座ったタイミングで、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。

 

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