空想メソロギヰ

#012 白凪優の幸せな生活。

 次の日の朝。

 僕は新しい部屋のベッドの上で目を覚ました。


 わざわざ鶴見さんたちが用意してくれた新居である。

 僕と甘神さんの監視と護衛をしやすくするため、という理由らしい。


 ということはつまり……。


「起きてください、朝ですよ〜」


 微笑みながら僕の部屋に入ってくるエプロン姿の美少女。 


「おはよう、”柚葉”さん」


 何を隠そう、僕は柚葉さんとの同棲生活を始めたのだ。


「”優”君もおはよう、朝ご飯できてるよ」


 しかもお互いに名前で呼び合う程仲良くなったのである。

 

 未だかつてこんな幸せな瞬間があっただろうか?

 いいやない、決してない、断じてない。


 僕は今、人生最高潮で絶好調の上り坂にいるのだ。

 涙を流して幸せを噛み締め続けていたい気分である。


 しかし日常生活は前と変わらず送らなければいけない。

 学校に行くのが学生の本文である。


 なので僕は柚葉さんの作ってくれた美味しい朝食をいただくために、パパッと身支度を整えて食卓に座った。


「いただきます」


 両手を合わせて会釈をしてから、朝食のベーコンエッグに手を付ける。


「すっごく美味しいです!」

「ふふっ、ありがとう」


 笑顔に囲まれた食卓。

 こんなに楽しい食事は生まれて初めてだ。

 

 幸せな気持ちのまま朝食が終了する。

 一緒に食器を片付けながら柚葉さんが言った。


「……昨日はあんなに色々あったのに、今日からは普通に学校なんて不思議な感じだね」


 あの後、柚葉さんにも詳しい事情が説明された。


 僕の中にいる魔王のことも、これから僕がどんな危険な仕事をすることになるかも柚葉さんは知っている。


 それでも僕の”柚葉さんを守る”という言葉を信じてついて来てくれた。

 なら僕は男として、命に変えても彼女を守らなくてはいけない責任がある。


「でも、何も心配はいらない。柚葉さんはいつも通り過ごしてくれればいいんだ」


 僕が笑って言葉をかけると、柚葉さんも笑って言葉を返してくれた。


「そうだね。優君と一緒にいれば、何も怖くないや」

『随分と自信たっぷりだな、小僧』


 僕の中の魔王が茶々を入れてくる。


『実際のところ、俺に頼りきりではないか?』


 確かに、僕が戦えるのは自分の力による物ではない。

 

「だから魔王もよろしくね」

『あのなぁ……』

「よろしくお願いしますね、魔王さん」


 姿は確認できないながら、柚葉さんも魔王に挨拶する。


『……まぁ、小僧だけならともかく。美女に頼られて悪い気はせんな』


 なんだかんだ魔王は優しい奴なのだ。


『優しくなんてない』

「ととと。優君、そろそろ学校が始まる時間だよ」


 柚葉さんに言われて、僕も慌てて出発の準備を整える。


「本当だ。行こう、柚葉さん」


 これからが僕たちの本当の学園生活の始まりである。

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