#009 白凪優、大バズりする。

 緊張の糸が解けたように、ワンワン泣きながら抱き合う僕と甘神さん。

 

 あわや二人とも殺される寸前だったのだ。

 これくらいの幸せがあっても良いと思うのである。


:たく、柚葉ちゃんと抱き合えるとか羨ましいぜチクショウ……。

:悔しいけど、柚葉ちゃんを助けてくれてありがとう!

:君は俺たちのヒーローだ! 名前も覚えてないけど!


 そんな僕たちを祝福してくれるコメントが流れていく。


 名前覚えてくれてないのは酷いなぁ……。

 でも、ありがとう。


 こんなに誰かから称賛されたのは初めてだ。

 本当に沢山のコメントが流れて……。


 ……ん?

 僕は配信の同接者数を見た瞬間、絶句した。


「……一……十……百……千……万……十万……」


 見たこともないような膨大な視聴者の数。

 どうやら今までの僕たちは凄まじい数の人たちに見守られていたようだ。


「あ、甘神さん……これ……」

「うん、白凪君が頑張ってくれたおかげだよ」


 何やら嬉しそうな様子の甘神さん。

 

 それもそうか……。

 甘神さんの動画がバズれば、それだけ甘神さんにメリットがある。


 この動画だけで凄まじい利益を得られるはずだ。


「そうか……甘神さんが有名になってくれれば、僕も嬉しいよ」

「何を言ってるの! これも全部白凪君のおかげなんだから、一番喜ばなくちゃいけないのは白凪君だよ!」


 そう言ってくれるだけで僕は嬉しかった。


「それでさ……白凪君がよければ、何だけど……これからも、二人で一緒に配信してくれないかな?」


 しかし甘神さんは更にそんな嬉しい提案をしてくれた。

 唐突な提案に目を丸くしながら僕が尋ねる。


「本当に、いいの……?」

「本当だよ!」

「やった……やったやった! これからもよろしくね、甘神さん!」


 お互いの手を取り合い、目一杯の喜びを分かち合う僕と甘神さん。

 本当に僕にこんな幸せなことがあっていいのか?

 

『随分と嬉しそうではないか』


 どうやら僕の中の魔王様も満更ではない様子で祝ってくれる。


「ありがとう……これも全部、魔王のおかげだよ……」

「魔王……?」


 不思議そうに首をかしげる甘神さん。


「そういえばまだ言ってなかったね。これも全部、僕の中にいる魔王のおかげで……」

『乳繰り合ってる最中悪いが、小僧』


 魔王が今までにない真剣なトーンで語りかけてくる。


『どうやら貴様に客が来たみたいだぞ』


 魔王が言うと、僕たちの周りを複数人の人たちが囲い込んでいるのに気がついた。


「初めまして」


 その集団の指揮をとっているであろう、メガネをかけた銀髪の女性が話しかけてくる。


「私たちは学園の運営側の人間だ。すまないが、君たちの配信は無理矢理停止させてもらったよ」


 聞いて、すかさずスマホを確認する。

 確かに僕たちの配信画面は真っ暗になっていた。


 こんなことができるのは運営側の人間に間違いない。

 いったいこの人たちは僕たちに何の用があってきたのだろうか?

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