#007 最強魔王様、無双する。

 真っ二つにされた腹の傷も塞がった僕の体が立ち上がる。


「白凪君……?」


 様子の変わった僕の風貌を見て声を漏らす甘神さん。

 完全な死に体から復活したのだから驚くのも無理はない。

 

:マジかよ、生き返ったぞアイツ!

:あの状況から生き返るなんて、どれだけ高度な治療魔術を……。

:ともかく、柚葉ちゃんを助けてくれ! 頼む!


 配信のコメントも更に混乱を極めていた。

 それをこの男にどうにかすることができるのか?


「案ずるな。あの程度の雑魚、この魔王の相手にはならん」


 不敵な笑みを浮かべる魔王。


 魔王と聞けば悪の親玉をイメージする。

 圧倒的な血と暴力の化身だ。


 そのイメージは間違いではないと僕は感じていた。

 それだけの荒々しい魂をこの魔王からは感じ取ることができる。


「だがせっかくの復活祝いだ。少しは楽しませろ、蟲」


 魔王が放つ殺気に反応したジャバウォックが声を荒げながら突撃してくる。


「アアッアアアアアアアア!」

「やはり見た目だけでなく鳴き声も醜いな」


 ふと、僕の体を通して見える景色が大きく変化する。

 僕が目で追えないスピードで、魔王が相手の背後に回り込んだ。


「のろいのろい」


 化け物の頭を鷲掴みにして、軽々と遠くへ投げ飛ばす魔王。


「小娘を巻き込まんように場所を移そう」


 魔王が余裕たっぷりに言って、ゆっくりと歩いて化け物に近づいていく。


:おいおいおい、嘘だろ……?

:相手はS級の超危険モンスターだぞ?

:それがまるで子供扱いじゃないか……。


 甘神さんの持つスマホの配信画面には滝のようにコメントが流れてくる。


「貴方は、本当に……白凪君、なの?」


 心配そうに小さく呟く甘神さんの声が聞こえなくなるくらい距離をとったところで、魔王が化け物に向かって手を伸ばした。


「なるほど。それなりに貴様の魔力量も多いではないか。少なくとも人間に恐怖される程度には、な」


 魔王が嘲笑するように言うと、手のひらに魔力が集まっていく。


:なんて魔力量だよ……。


 魔王が放つ凄まじい魔力量に誰もが驚愕していた。

 

:こんなの見たことねぇ。

:アイツ本当に人間?


 集めた魔力を魔弾にして放つ魔王。


 ドゴッ!


 魔弾は化け物に命中し、顔面の半分を消し飛ばした。


「どうしたどうした、まだこの程度では死なんだろう?」


 笑みを浮かべながら、魔王が先程と同じ魔弾を複数個用意していた。


:ありえねぇ、人間が扱っていい魔力量じゃねぇぞ?


 さっきからコメントも驚きっぱなしだ。

 当然だ、こんなことが可能なのかよ!


「一撃では死なんよう手心を加えてある。なるべく長く悲鳴を上げて俺を楽しませるんだな。まあ、せいぜいがんばれ」


 魔王が低く冷徹に告げると、全ての魔弾を化け物目掛けて発射する。


「アッギャギャギャギャァァァァァァギィィィアアアァァァァァァ!!!」


 叫び声を上げながら、真っ黒な血を撒き散らす化け物。 

 

「良い! 良い声を上げるではないか! これぞまさしく魔王の復活を祝福する鐘の音よ!」

 

 けたたましい鳴き声を聞きながら、大変愉快そうに魔王が笑う。


「さあ! 再び手に入れたこの命、此度も思う存分満足させてもらおうではないか!」


 果たして魔王を甦らせた僕の選択は正しかったのだろうか?

 ともかく、甘神さんが無事でよかった。

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