#005 底辺配信者、死す。

 そこから僕と甘神さんのコラボ配信は順調に進んでいった。


 といっても、基本的には甘神さんの素晴らしいトーク力に頼りきりだ。

 進行は全て彼女に任せ、僕はリアクションを取る役割に徹している。


「見て見て白凪君! 宝箱があるよ!」

「ちょ、ダメだよ! そんな分かりやすい場所にある宝箱なんて絶対罠だよ!」


 甘神さんを庇って宝箱に突っ込む。

 案の定宝箱はトラップで、化け物のように大きく口を開ける。


 初級ダンジョンに多く生息するミミックだ。

 こんな簡単な罠に僕は見事に引っかかってしまうのであった。


「大丈夫白凪君!?」


 そんな僕を甘神さんは真剣に介抱してくれる。


 甘神さんが分かりやすくフラグを立ててくれれば、僕が体を張ってそれを回収するだけで笑いが取れるので、配信は大いに盛り上がってくれた。


:ええやん、おもろいやん。

:邪魔だと思ったけど良い味出してるじゃん、アイツ。

:引き立て役に最高だよな。


 どうやらそれが視聴者にも気に入ってもらえたようで、コメント欄は賞賛の嵐である。


 それだけで僕は満足だ。

 僕なんかが甘神さんの役に立てるのであれば何だってする。


「もぉ〜、白凪君無茶しすぎだよ」


 肝心の甘神さんには少し心配をかけてしまっているようで申し訳ない。


「大丈夫、問題ないよ」

 

 僕はそう言って、甘神さんの手を借りてミミックから脱出する。

 

「本当に大丈夫だから」


 僕が作り笑いで何とか誤魔化すと、何やら複雑そうな顔をする甘神さん。

 それでも配信は無事進行し、大盛り上がりを見せていた。


 視聴者数も千人を突破している。

 学園の一生徒、それも新入生の配信にしては破格の視聴者数だ。

 

 これにも甘神さんは喜んでいる様子だ。

 

「ありがとうね、白凪君」


 配信の小休憩で岩の上に腰を下ろすと、甘神さんがそう話しかけてきた。

 

「白凪君と一緒に配信するのすっごい楽しいよ」

「僕の方こそ、ありがとうございます……」


 水の入ったペットボトルを手渡しながら僕が言う。

 

「こんなに楽しい時間を過ごせたのは、これが初めてです」

「それは言い過ぎだよ〜」


 何気ない会話で誰かと盛り上がる。

 僕にとってはそれは初めてで、また楽しい経験だった。


 しかも相手が美少女と来た。

 文句なしに最高だ。


 できれば一生このままでいたい。

 僕たちはそれだけの勢いで笑っていたと思う。

 

 けど、そんな幸せな時間は突如として崩れ去った。


「甘神さん、危ない!」


 突然の出来事に反射的に僕の体が動き、甘神さんを突き飛ばした。

 

 甘神さんの背後に見えたのは、真っ黒な姿の巨大な化け物。

 そして化け物が鎌のように鋭く尖った腕を振りかぶっている姿である。


「白凪君!」

 

 彼女を突き飛ばして化け物の攻撃から庇った、次の瞬間。


 ザシュッ!


 化け物の攻撃を受けた僕の体が真っ二つに切断された。

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