第7話 この子が僕のシンデレラガール
「決めた! 僕のシンデレラガールはこの子で!」
その瞬間、会場全体からどよめきがあがった。
「ええっ! 急になに言ってんのあの人?」
「いや~、他にもっと相応しい子いると思うけどねぇ」
「プッ、あれで審査員長って。見る目なさすぎでしょ」
それが、残念ながら見る『目』だけはあるんだ、BP1や2のキミたちよりもずっとね。
僕の決断に、審査員席からも驚きの声があがる。
「はっ? ちょっと待ってくださいよウラベロクローさん! いくら審査員長とはいえ、審査はあなたの一存ではなく、決定は審査員全員の協議によって決まりますので!」
たしかに、僕の能力を知らない人から見れば、奇異に思えただろう。
一般的に見ればどう考えても選ばれない志願者のほうを、おそらくは会場でただ一人だけ謎に推しているのだから。
だが、僕が視ているのはそんな表面上の優劣ではなく、未来のスターとして大成できるかどうかの『器』だ。
僕が欲しいのは『上限が見えている器』ではない。いまは荒削りでも成長して力をつけていけば、あのアクトにも対抗しうる可能性を持った、『上限が見えない大器』なんだ。
すべての志願者のパフォーマンスが終わり、審査員の中でアカリを推しているのは僕ただ一人。
他四人の審査員はすべてリンを推しており、協議の結果4対1という圧倒的大差で、シンデレラガールはリンに決まった。
会場全体からは『見る目のない審査員』というレッテルを貼られることになってしまったけど、自分の選択にまったく後悔はない。むしろ素晴らしい逸材にめぐり逢えた僥倖に、気分は晴れ晴れとしている。
アカリをシンデレラガールにしてあげることはできなかったけど、そこは僕も頑張った。
たしかに、ナギサタウンのシンデレラガールはリンとなったが、僕の猛烈なプッシュの結果、なんと『審査員特別賞』という形で、アカリも一緒に表彰してもらえることになったのだ!
これによって、ナギサタウンの『公認配信者』はリンとなり、アカリは『審査員特別賞』の受賞者として、僕と一緒に配信者としての活動をスタートさせることとなった。
当然二人を同時にプロデュースはできないため、リンには申し訳ないことをしてしまったと思うけど、ナギサタウンのバックアップを得て配信者としてデビューできるのだから、これはこれで良い形に収まったのではないかと感じる。
それに、オーディションでの堂々とした姿を見てもわかるとおり、リンは強い女性だ。僕なんかのサポートがなくても、きっと一流の配信者として成功できる才能と、どんな困難にもくじけない心を持っているよ。頑張ってほしい。
表彰式が終わり、なぜかリンが、自分を選んでくれなかった僕の元に近づいてきた。
「あの……ウラベロクローさん……」
「うん? ああ、リンさん。どうしたの」
「いえ……あの……なにか私に悪いところがあったのかなと……。最後に、ウラベロクローさんには選んでいただけなかったから……」
そう哀しげにつぶやくリンの言葉を、僕は全力で否定した。
「いやいやいやいや! 悪いなんてそんなことないって! リンさんのパフォーマンスは本当に圧巻だったよ! ただ僕の中で求めてる方向性が違ったってだけで」
「そうですか……。できれば全員一致で、私もウラベロクローさんにプロデュースしていただきたかったです。今日は良い機会をいただき、本当にありがとうございました。あっ、アカリちゃんにもよろしく言っておいてください。フフっ、同じナギサタウンの一期生として、あなたには負けないよって」
リンは自分を選んでくれなかった、いわば『敵』のような存在である僕にも、まるで恨み節など言うことなく、深々とお辞儀をして去っていった。
リ、リンちゃん……なんていい子だったんだ……。いい子であればあるほど、逆に罪悪感が募っていくのはどうしたものか……。
僕が自分の中の罪悪感と必死に戦っていることなど露知らず、表彰を終えたアカリが嬉しそうに僕の元に駆け寄ってくる。
そこで初めて、僕はアカリと言葉を交わした。
「やったね! 審査員特別賞おめでとう!」
「は……はい……。で、でも……わ、わたしなんか、他の子たちと比べてなにもできてなかったのに……。ほ、ほんとうにわたしでよかったのでしょうか……」
「そんなの気にしなくていいって。僕がアカリちゃんのがんばりを見て、受賞に相応しいと思ったから選んだんだからさ。もっと自信を持って! 僕が断言する、キミは自分で思ってるより、もっとずっとやれる子だよ!」
「そ、そうなのでしょうか……。自分では、とてもそうは思えないのですが……」
「だからそんなことないって! ごめん、ちょっといい?」
僕はその『証明』をするため、アカリに了承をもらって、試しに長く伸びた前髪をかきあげてみた。
すると、なんということでしょう! 未来のスターのとてつもなく美しいご尊顔が、そこにくっきりと浮かび上がってきたではないか!
「あ、あの……どどど、どうなん……でしょうか……」
「す……素晴らしい……素晴らしいよアカリちゃん! やはり僕の目に狂いはなかった、キミはとんでもない逸材だ!」
「そ、そんな……逸材だなんて……」
そう言って恥ずかしがるアカリの前髪を戻すと、僕は笑顔で励ました。
「いい? だからもっと自信を持って」
「は、はい……。ウ、ウラベロクローさん……」
「うん、ウラベロクローだけど、昔からよくふざけてトベって呼ばれてた。キミもトベでいいよ」
「ト、トベさん……。はい……」
アカリはなにかモジモジしている。
「あ、あの……わ、わたしもあの、その……」
「うん?」
「ア……アカリで大丈夫です……」
なんだ、そんなことを気にしてたのかと、僕は笑みを浮かべた。
「わかった。それじゃ、これからはトベとアカリね」
僕のシンデレラガールはアカリ。
今日から僕は、この子をスターとしてプロデュースしていくんだ。
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