第8話 プロデュースの始まり

 この世界のキングライバーには、主に次の『5つの能力』が重要だと言われている。


 その能力とは、1にルックス、2に強さ、3に好感度、4に精神力、5に体力というものだ。


 この辺は現世の配信者と似たようなものだなと思ったけど、2に重要なのが『強さ』というのは、冒険配信が人気なこの世界ならではの項目といえるだろう。


 そして、体力ももちろん大事だけど、それ以上にどんなに自分の配信が荒れてもけしてへこたれない、強靭な精神力が必要とされるというのも、現世と本当にそっくりな部分だなと感じた。


 この伸ばすべき重要な能力の方針に従い、早速アカリのプロデュースに動き出したいところだけど、なにしろ先立つものがない。


 本来、僕が立てていたのは次のような計画だった。


 ナギサタウンの公認配信者のお墨付きをもらえれば、町からバックアップの活動資金が得られる手筈となっていたため、本来はその資金で優勝者をプロデュースしていくはずだった。


 しかし、ああいった『イレギュラー』な形での受賞だったため、町から得られた援助はごくわずか、僕とアカリは早速『資金難』という現実的な問題に直面してしまっていたのだ。


 と、こういった事情から、アカリにはしばらく自宅に戻っていてもらい、僕はシンジュの宿に住み込みで働かせてもらうことで、初配信を始められるだけのお金を貯めていくことを提案した。


 しかし、アカリの返答は驚くべきものだった。


「あ、あの……わ……わたし……戻るところありません……」


「……は?」


「……配信者になると家は飛び出してきたので、も、もう頼れる方はトベさんしかいないんです……」


「そ、そんなこと言われましても……」


 まいったな、こんな展開はまったく予想してなかったぞ……。他に身寄りのないアカリを放っておくわけにもいかないし、かといって僕も来たばかりでこの世界にツテなんかないし……。


 ハッ! と、ということは、しばらくの間はシンジュの宿の自室で、僕はアカリと二人きりということに……。


 ど、どどど、どうしよう……。いや、待て待て、なぜ動揺してるんだ僕は、なにも問題はないはずじゃないか、だってあくまでプロデューサーと候補生なんだから、なにも心配するようなことはないはず、変に意識することなく、師匠と教え子みたいな感じで接して……。


「ああ、それなら空いてる離れがあるから、あんたはそこを使うといいよ」


 いやあるんかいっ!


 ちゃんと別室あるんか~いっ!(?)


 アカリを連れて宿に戻ると、おかみさんがそう言ってくれたので、僕は安心したやらどこか残念やら(?)で、心中で思わずそうツッコんでしまった。


「ん? どうしたんだいウラベロクローは? そんな動揺しちゃって」


「いえ……なにも問題ありません……」


「相変わらず変な人だねぇ。さあさ、アカリちゃん、部屋に案内するからね」


 アカリはお礼を言うと嬉しそうに、トコトコとおかみさんの後をついていった。


 いや、僕の動揺はどうでもいいとして、見ず知らずの人間を二人も引き受けるなんて、どんだけ良い方なんだ……。僕は感謝や感動の気持ちでいっぱいになって、思わずおかみさんの後ろ姿に手を合わせた。


 そうして、そこから一週間、僕とアカリは宿に住み込みで働かせてもらい、初配信を始められるだけのお金を貯めていった。


 当初働くのはプロデューサーである僕一人でいいと言ったのだけど、アカリがどうしてもと譲らないため、僕も最終的には折れて、力のいらない仕事を手伝ってもらうことにした。


「や、宿の方々にすこしでも恩返しがしたいんです……。わ、わたしも、できる仕事はがんばりますので……」


 引っ込み思案な性格だけど、そういうところは頑固で真面目なんだなと、僕はそんなアカリの性格を微笑ましく思った。


 アカリと二人で頑張って働き、当初の目標としていた金額に到達したため、僕たちは休みの日に、配信の様々な機材を取り扱っている中古ショップに出かけた。


 初配信までの環境を整備するにあたり、まず一番優先度が高いのは『配信端末』だろう。キングライブスがなければ配信をスタートさせることすらできないのだ、お金を貯めて真っ先に購入すべきなのはこれだといえる。


 ショップに着くと、僕たちは早速ショーケースに並べられたキングライブスを品定めした。


 記念すべき、アカリの配信者としての門出なんだ。本当は気持ちよく新品を買ってあげたかったのだけど。これからどんな出費があるかわからないし、いくらアカリに才能があるとはいえ、まだ配信者として一銭も稼げたわけではないんだ。捕らぬ狸の皮算用はやめて、初期投資はできるかぎり抑える必要がある。


 購入したキングライブスは、中古とはいえ新品のような綺麗さで、かなり状態がいいものだったため、アカリも本当に嬉しそうにしてくれて、見ているこっちまで嬉しくなった。


「す、すごいっ……これはぜったい掘り出しものですね……! 前の持ち主の方、あんまり使われていなかったのでは……! トベさん……こんなに良いものを、ほんとうにありがとうございます……」


「いやいや、アカリがキチンと責任を持って仕事したからだよ。さ、次は美容室へ行くよ」


「は……はいっ、よ……よろしくお願いしますっ!」


 配信に必要な機材も揃い、次はいよいよアカリ自身のプロデュースが始まる。キングライバーとして重要な能力のその1、まずは『ルックス』面について、美容室で仕上げてもらおうというわけだ。


 この町の美容室は、シンジュの宿からほど近い場所、さまざまな専門店が立ち並ぶ、海岸に面した通りの一角にある。

 

 アカリと二人で、エメラルドグリーンの海の絶景を楽しみながら歩き、僕たちは意気揚々と美容室へ向かった。

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