第25話.エピローグです〜お揃い嬉しい♡

「いやー、よかったです~。めでたしめでたしですね」

「ほんとよかったよー」


 初めての哲学研究部みんなで過ごす休日。

 に、なぜか小川さんもいる。

 そして、新名さんと付き合ってから、初めての外出だ。


「智愛様を泣かせたりなんかしたら、あたしが殴り込みに行きますからね。それで、あたしが智愛様をいただきます」

「いやいや、かなちゃん。智愛ちゃんは私がいただくよ」

「くっ。まさか萌優さんが立ちはだかるなんて。」


 なぜか二人の女が新名さんを取り合っている。

 新名さんはぼくんだ!……あれ、もしかしてぼくに止める権利ある?


「あのー。お二人とも。それは困ると言いますか」

「なんですか? そもそも、どう考えても先輩に智愛様はもったいなすぎるでしょ。あと、そのかばんに着けているかわいらしいイルカのストラップも……。あたしの目が腐ってなければ、どう見てもハートの片割れなんですけど。相方はどこにいるんでしょうねえ?」

「ははは……」


 言葉の棘が痛い。ちくちくする。


「あ、あそこクレープ売ってますよ。せんぱ~い、買ってきてくださいよ~」

「なんでぼくが暁月さんに」

「なんでって、正気ですか? あれだけ助けてあげたのに。そうでなくても、こんなにかわいい後輩に貢げるなんてありがたいと思わないんですかね。むしろ感謝すべきですよ」


 むちゃくちゃな理論を展開する暁月さんを、小川さんはにこにこと見守っている。

 なんか、暁月さんと遊んであげているお姉さんって感じだな。……じゃあ、ぼくは何?


「次のテストでは助けてやらんぞ」

「うえ~ん。智愛様~」

「ふふふ。直前に困らないように、早めに勉強しましょうね」

「智愛様、ちょっと怖い……」


 少し自分の感情に正直になった新名さんに、暁月さんが慄く。ぼくも怒られないように気をつけよう。怖いもん。


 その時、ぼくは視界の奥に見知った人影を見つけた。


「あれ、あそこにいるのって」

「げっ」


 彼らもこちらに気がつき、駆け寄ってくる。


「あ、にーちゃん。と、奏先輩だー。あと美人なお姉さん。それに可愛い人……。なんでお兄ちゃんが素敵な女性に囲まれてるの?」

「いや、それはその……。」

「はじめまして。新名智愛です。つ、翼さんとお付き合いさせてもらってます」


 翼さん、という言葉に少し顔を赤らめる。ついでにぼくも赤らめる。


「えっ、お兄ちゃんと? どうしてこんなかわいい人が……」

「信じられないよね~」

「奏さん! ほんっとそうですよ。いつもうじうじしてるのに」

「家でもそうなの?」

「はい。おかげでこっちまで暗くなりますよ」

「それは困るね~」

「妹さんもかなちゃんも言うねえ……」


 相変わらずぼくの悪口で盛り上がる二人。

 共通の話題があるのはいいことだな。


「あの、姉さん」


 響くんが暁月さんに話しかける。


「な、何?」

「今度、哲学のこと教えてよ?」

「えっと、あたしが?」

「うん、姉さんのソクラテスの紹介、学園祭で読んだんだけどすごくおもしろかった。きっといろいろなこと考えてるんだろうなって伝わったよ」

「そんな。あたしなんて全然……。」

「よかったですね。奏ちゃんのがんばりが伝わって」

「智愛様……」

「どうかな?」

「わかったわよ。その代わり……」


 暁月さんはニヤッと笑って言った。


「今度あたしに数学、教えてよね」


 次回のテストで、ぼくの出番はなさそうだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼくの好きな人はニーチェに夢中なようです 薬味たひち @yakumitahichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ