第18話.これはハーレムじゃありません~頼れる男は難しい

「智愛様〜、たこ焼き買ってきました~」


 屋台でたこ焼きを購入した後、ぼくと暁月さんはそのまま部室に戻ってきた。


 結局、残った4つのたこ焼きも暁月さんが一人で食べきったため、ぼくが間接キッスを気にする必要はなくなった。べ、別にぼくは最初からそんなの気にしてないけどね。


 先に部室に戻っていた新名さんは、例の冊子を読み込んでいた。


「わあ、おいしそう。ありがとうございます」


 暁月さんからたこ焼きをもらった新名さんはふうふうしている。

 できてから時間経ってるので熱くはないと思うけど……かわいいからOKです。


「智愛様はこの後、どこか行きたいところはありますか?」

「そうですね……。あ、お化け屋敷に行ってみたいです」

「いいですね! 行きましょ行きましょ。あ、でも定員二名だから三人では入れないかも」

「そうなんですか……。では奏ちゃんと相田さんで行ってきてください! 私は感想を聞かせてもらえれば大丈夫ですから」

「だめですよ~。やっと智愛様の仕事終ったのに。それなら、相田先輩と智愛様の二人で入って来てくださいよ~」


 二人とも気を遣って譲り合っている。

 でも、なんか押し付け合われてるみたいで複雑な気持ち。

 それに……。


 せっかくなら三人でなにかしたいな。


 あ、そうだ。


「迷路行かない? うちのクラスの」

「迷路ですか?」

「うん。ぼくも新名さんもまだ自分のクラス行けてないし。そこなら三人で入れるから」

「それ、いいですね! 行きましょう」

「先輩にしては珍しくいいこと言いますね~」


 ぼくも珍しく暁月さんに褒められました。気分がいいです。


「じゃあさっそく行こうか」

「は~い」


※※※


「お、相田君。ハーレム状態だねぇ」

「え、いや、別に」


 というわけで、迷路の受付に到着。

 ちょうど小川さんがシフトだったらしい。ニヤニヤしながら声をかけられた。

 例によって、こうしたいじりに対するうまい返しをぼくは知らない。


 それにしても今日はよく会うな。


「ハーレムというか、召使いですね~」

「おい!」


 暁月さんへの反応だけは速くなっている。ふっ、見たか。これがわしの実力よ。


「ぷっ。やっぱり仲いいんだね」

「ほんと、先輩があたしのこと大好き過ぎて困ってるんですよ~」

「そうなの? 奏ちゃん、罪な女だね~」


 小川さんがにやりと笑った。敵が増えてないか?

 さすがのぼくも捌ききれんぞ。


「ふふふ。相田さん、モテモテですね」


 にこやかに言いつつも、目がまったく笑っていない。

 えっ、怒ってる? 私、また何かやっちゃいました? これが四面楚歌というやつか……。


「智愛様~、相田せんぱ~い。早く入りましょ~」

「は、はい。行きましょうか」


 暁月さんに促され、ぼくたちは中へ移動する。

 横にいる新名さんの表情も優しくなっいる。

 さっきのは顔は何だったんだろう。


「たぶん外側に進むのが正しい道順ですね。教室を広く使うこと考えたら」

「……そうかもね」


 メタ的な推理を披露する暁月さん。

 だけどさ、もう少し迷ってあげようよ。


 とはいえ、ぼくも準備に顔は出していたので、内部の構造はほとんど把握していた。そもそも、迷路とは言っても、教室の大きさを考えればそんなに複雑なものはできないわけで。どちらかというと、装飾がメインだ。


「宇宙っぽい雰囲気なんですね~」

「そうなんです。私はあまり参加できなかったのですが……あの月は、私が作成させていただきました」

 

 新名さんが天井からつるされた月を指す。

 ライトに照らされ、幻想的な光を放っている。


「え、すごい。これ写真じゃないですよね? 本物みたい。めっちゃきれい……」


 新名さん、絵もうまいのか。クオリティーたっか。黙々とチープな星を生産し続けていた自分が恥ずかしい。


「先輩は何か作ったんですか?」

「……その壁の星を」

「あ、そうなんですね」


 まさかのいじられることもなくスルーされる。

 一番つらいです……


「あ、もうゴールみたいですよ」


 扉から光が漏れている。

 滞在時間は三分くらいだったが、よくできていた気がする。装飾もきれいだったし。ぼくが作ったもの以外は。


 迷路から脱出すると、小川さんに迎えられた。


「みんなお疲れ様~。どうだった? まあ、智愛ちゃんと相田くんは中身知ってるから新鮮味はないか。後輩ちゃんはどう?」

「そうですね~。迷路自体はやや物足りませんでしたけど。装飾は凝ってて、けっこうおもしろかったです~」

「そっかあ。よかった」


 暁月さんらしい素直な感想。

 それなりに満足してくれたみたいでよかった。


 何より、この三人で同じ経験を共有できたことが嬉しい。


「ところで、私ちょうどシフト終わるんだけど、よかったら一緒に学園祭回らない?」

「いいですね。ぜひ!」

「あたしお化け屋敷行きたいです~。四人なら二人ずつに分かれられますし~」

「お、いいね。行こ行こ。相田くんもそれでいい?」

「うん。もちろん」


 自然にぼくの同意も取る小川さん。

 この人……できる。

 

 そのまま、四人でお化け屋敷へと移動する。

 学園祭を女の子三人と過ごすなんて。新学期が始まった直後は思いもしなかったな。まあ、ぼくはくっついてるだけだけど。


 前を歩くのは小川さんと暁月さん。暁月さんも背は高いけど、小川さんはそれよりも一回り大きいので、後ろからだと姉と妹のようにも見える。

 その後ろにはぼくと新名さん。お互いクラTだからペアルックみたいで嬉しい。


「お、あれだね」


 小川さんが指した先には『呪いの館』。

 今は割と空いてそうだ。


「実は私、こういう場所は初めてで……少し緊張します」


 さっきはけっこう乗り気だったけど、怖さに好奇心が勝った感じなのかな。弱気な新名さんは珍しい。かわいいのお。


 不意にドンッと、背中に衝撃を感じる。暁月奏だ。


「智愛様が怖がってますよ。男性としてしっかりとリードしないと」

「リードって……。暁月さんは?」

「あたしは萌優さんと入りますよ」

「うん。かなちゃんがピンチの時は私が守るからね」


 小川さん、萌優って名前なのね。なんか目配せし合ってる。この二人初対面だよな? 距離近くな。い? これがリア充、恐るべし……。


「次の方どうぞ~」


 係の人に案内される。先に入るのは小川&暁月さんだ。


「では行ってきま~す。智愛様、お気を付けて。先輩は気合入れてください」

「相田くん、ファイト!」


 叱咤激励?の後、二人は暗闇の中へと消えていった。



 次回。

 新名さんとのお化け屋敷です。

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