第16話.学園祭、開幕です~ツインテールは最強!


 7月に入り、早朝からかなり蒸し暑さを感じる。

 だが、生徒たちの青春の輝きにより、学校全体がそれを超える熱気を帯びていた。

 学園祭当日である。


 ぼくは登校するとまず、カフェの会場である部室へと向かった。

 校内もかなり暑く、クラTを着ているにも関わらず、既に汗だくである。


 部室の扉の前には『カフェ♪ ツァラトゥストラ』という看板が置かれていた。なんかおしゃれな感じにデコられている。このTHE・JKなセンスは、おそらく暁月さんだろう


「あ、先輩。おはようございま~す。」


 中から出てきたのは、THE・JKこと暁月さんだ。

 青いクラスTシャツを着て前の部分を絞っており、おへそがちらりと見えている。タッタタラリラである。……正直、目のやり場に困る。ただでさえ、この人普段からスカートが短くて刺激が強いのに。


「せんぱ~い。どこ見てるんですか~。もしかして、あたしに見とれちゃいました~?」


 にやにやしながらいつも通りの煽りを披露する。

 だが、残念ながらその通りであるため否定できない。や、やめて、暁月さん。そんなに身体を寄せないで。お、お胸が、近いわ……。あれ、今日いつもと匂い違わない? 香水か?


「あ、相田さん。おはようございます。」

「新名さん、おはよ――!」


 続いて出てきた天使様こと新名さんに、ぼくは目を奪われた。

 ぼくと同じ黄緑色のクラスTシャツで、暁月さんのような間違った着方はせず、正しい着用法を守っている。

 だが、普段の彼女とまったく違う点があった。


 ツ イ ン テ ー ル


 思わず、「夢がかなった!」と叫びそうになった。


 以前も言及したように、この髪型は人の魅力を何倍にもする可能性を秘めている。

 だが、今日の新名さんの魅力は、ぼくの想像を遥かに超えていた。

 そう。ツインテールにより、彼女ののかわいさは500倍まで引き上げられていると言っても、過言ではない。


 しかし残念なことに、ぼくはそんな彼女の魅力を的確に表現できるほどの語彙を持ち合わせてはいない。やっと出た言葉は、これだけだった。


「髪……かわいいね」

「……あ、ありがとうございます」


 ぼくの顔をちらっと見ると、新名さんは目を逸らした。

 あ、だめだ。絶対引かれたやつだ……。どうしよう。ぴえん。


「ふっふーん。どうですか。あたしが結んだんですよ~。」


 暁月さんが自慢げに言った。ありがとう。ぼくはもうだめかもしれないけど、新名さんのツインテールが拝めたから、我が生涯に一片の悔いなしだよ。


「で、ではがんばりましょうね」

「は~い」

「うん。がんばろ」

 

 ぼくたちの学園祭が始まった。


※※※


 一度、体育館で校長や生徒会長の挨拶なんかを聞いた後、再びカフェに戻った。

 既に2人ともメイド服に着替えている。まだ少し恥ずかしいのか、新名さんはスカートの裾や肩のところ布を気にしているようだった。要は萌える。


 そしていよいよ、『カフェ♪ ツァラトゥストラ』が開店した。


 うちの店は基本的におひとり様用である。リア充お断り!ではないけど、まあ本を読んでもらうのが目的なので、一人用の席しか用意していない。一人で静かに過ごせる場所、がコンセプトである。

 店は14時までで、その後は自由時間である。おそらく昼時がピークになるだろう。


 入店した客は飲み物を注文した後、端にある本棚から好きな本を借りて読むことができる。ちなみに、本棚の横にはぼくたちが作成した哲学の冊子があり、こちらは持ち帰り自由だ。みんな見てね!


 接客を行うは、2人のメイド様。

 ぼくも初めは接客をしていたのだが、客が皆「来るな。蝶ネクタイださ夫。おれらはかわいいメイドさん目当てなんだ」という目で見てくるので、接客は二人に任せ、ぼくは列の整理や会計、空いた机の清掃などをしている。


「その服、かわいいね」

「あ、ありがとうございます」


 いかにも運動部っぽい男が、新名さんに声をかけている。

 こら! そういう店じゃないぞ。ここは本を読むところなんだ。野郎、わきまえろ。


 と、心の中で注意する。べ、別にビビってるわけじゃないんだからね。


「写真とかいいっすか?」


 だめに決まってるだろ、おい。

 ぼくだって撮って欲しいのに。


「すみませ~ん、おにいさ~ん。そ~いうのはやってないんです~。あと、他のお客様にご迷惑ですので、お静かにおねがいしま~す」

「あ、はい。さーせん……」


 暁月さんが新名さんと男の間に割って入り、営業スマイルを顔に貼り付けながら、まったく笑っていない目を彼に向けた。ナイスです。


 ま、ぼくもちょうど助けに入ろうと思っていたんだけどね。……ほんとだもん!


 その後、一回目の客が抜けていき、空いたテーブルを順に拭いていると、後ろから声をかけられた。


「相田くんじゃん、やっほー。さぼり?」

「いや、働いてます」


 この人は……あっ、こないだ迷路作りで一緒になった女子か。今日は髪に2つのお団子が乗っている。

 学園祭ってみんな気合い入れるから、結構雰囲気代わるよな。最初誰かわからなかったぜ。


 それはそうと。どう考えても仕事してるでしょ、私は。見てわかりません? 台拭き持ってるし。 ……もしかして私、いじられた?


「あ、小川さん。こんにちは」


 新名さんもこちらにやってきた。メイド服かわいすぎだろ。眩しすぎて目がやられそう。普段、新名さんのスカートはひざ下まであるから、太ももまで露にしているのが新鮮で、魅力的で、刺激的で……。とにかく、暁月さんありがとう。


 ところで、この方小川さんって言うんだ。

 もう七月に入るが、実はクラス名との名前は三割くらいしか頭に入っていない。接点がない人の名前、皆さんはどうやって覚えていますか?


「智愛ちゃんおつかれさま~。その衣装めっちゃかわいいね! 似合ってるー」

「ありがとうございます。少し恥ずかしいですけど……」


 顔を赤らめて下を向きつつ、上目遣いで小川さんの方を見ている。何?その表情。悶え死にそう……あなたはどれだけ、ぼくを落としたら気が済むのでしょう。


「――どこ見てるの? 相田くん」


 小川さんがニヤリと笑っていた。


「い、いや、何でも……」

「ふーん、そっか。あ、智愛ちゃーん。私もコーヒー飲んでいっていいかなー?」

「もちろんです!お好きな席にどうぞ」


 小川さん。暁月さんに似たオーラを感じる。要警戒の必要ありだな。


 彼女は席に着くと、運ばれたコーヒーをすぐに飲み、5分ほどで席を立った。外の女子が小川さんと目配せしていたから、おそらく次の予定があるのだろう。


 帰り際「がんばってね。相田くん」と耳打ちされたのですが……。あれはどういう意味だったのでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る