第11話.勉強回です……~宝くじ、当てたいな
「くじが十本あって、三本が当たりなんだから、当たる確率は十分の三でしょ?」
「いやいや。よく考えてくださいよ~。当たるか外れるかの二択ですよ? 二分の一に決まってるじゃないですか」
「それは確率ではなくて……。ほら、百回やっても当たるのは三十回くらいでしょ」
「ちゃんと問題読みましょうよ~、せーんぱい。一回しか引かないって書いてるじゃないですか~」
「それは……。うーん」
今、ぼくは暁月さんに数学を教えている。
テスト範囲は確率。暁月さんは極端に飲み込みが悪いわけではないけど、自分の中で納得できないと先へ進めないタイプのようで……正直かなりてこずっている。
まあでも、納得するまで探求するという姿勢は悪いことではない。むしろ勉強熱心であるとさえ言える。であるならば、教える側の人間としては、彼女の疑問にとことん付き合う必要があるだろう。……でも、もし本当にすべてのくじが二分の一の確率で当たるなら、ぼくは勉強なんてほっぽり出して、今すぐ宝くじを買いに行くべきだろうな。
「せんせ~い。教えてくださ~い」
ぐぬぬ。こういう時だけ無駄に敬ってくる。心なしか嬉しそうにさえ見える。一応ぼくが教える側なのに、なぜこちらが振り回されてしまうのか。
どこかにヒントはないか……。
ん? これは。
「ねえ、暁月さん。この問題なんだけど。どうやって正解したの」
「え~っと、なになに。1~5の数字が書かれたカードを一枚引いて、奇数が出る確率……。いや奇数は1,3,5,の三枚しかないんだから、五分の一×三で五分の三に決まってるじゃないですか」
ほお、なるほど。わかったぞ。だから、くじの時は混乱していたのか。
「じゃあくじも1~10の番号付けて、1,2,3を当たり、4~10をはずれにしよう」
「……はい?」
「1を引く確率は?」
「えっと十種類の数字の内1は一つだから十分の一ですね」
「2は?」
「十分の一ですね」
「3は?」
「……十分の一」
「それを全部足すと?」
「十分の三……あ!」
そう。これは前に暁月さんが解いた問題と同じだ。見方が違うだけで。
でも、暁月さんに教えるまで、ぼくもこういう考え方をしたことはなかった。
新名さんは前に、教えることで視野が広がるって話していたけど、こういうことなんだね。
「やりますね~。さすが先輩です」
「はいはい。思ってもないこと言わない」
「……思ってますよ」
「なんか言った?」
「いや、何でもないで~す。ま、次の問題は華麗に正解して見せますよ」
「おう。期待してる」
その後、苦戦しつつも範囲を一周終え、ぼくは新名先生と交代した。ちなみに、そちらの先生は自作のプリントまで用意していて、生徒も別人かと思うほど素直なのでかなりスムーズに進行していた。
やっぱり、ぼくは必要ないですね。
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