第7話.後輩に特等席取られました~勘違いしたら負けなのだ
我らが部活に
「相田せんぱ~い。つかれました~。ジュース買ってきてくださいよ~」
さっき来たばかりとは思えないほど、彼女は部活に馴染んでいた。というか、ぼくの居場所の方が狭くなっていた。ぴえん。
「何でぼくが……」
「かわいい後輩の頼みじゃないですか〜」
「いや、自分で言うなよ」
「……だめ、ですか?」
彼女が目をウルウルとさせ、唇に指をあてながら甘えた声を出す。すごい演技力だ。ぼくのような強い意志の持ち主でなければ間違いなくやられていただろう。この人、演劇部の方が向いているのでは?
「だめです」
「ちぇっ。けち〜」
けちで結構コケコッコー。貴様の思い通りにはいかないのだ。残念だったな。
……まあ、別にジュースくらい買ってきてもいいのだが、そう簡単に言いなりになるわけにはいかない。こういう強者女子は、我ら弱者男子の扱いが非常にうまい。彼女たちは時に甘え、時に好意をちらつかせ、時にそっけない態度をとることで、我らの心を弄ぶ。その過程で「あれ、こんなに遠慮なく絡んで来るってことは、ひょっとしてもしかしてぼくだけに心を開いてる?」と錯覚しそうになることもあるだろう。だが、それはありえない。彼女たちは好きな男を雑に扱わない。パシリはどこまでもパシリなのだ。
思えば、ぼくが告白した女もそんなやつだった。(おい誰だ、酸っぱい葡萄って言ったのは!)勘違いするバカな男も悪いが、狙ってやってる女はもっと悪い。絶滅しろ。
「暁月さんもすっかり慣れてきたみたいですね。相田さんもお疲れ様です」
「ありがとう。新名さんもお疲れ様」
薄汚れたぼくの心が、天使様のお声で浄化されていく。やっぱり新名さんしか勝たん。
「新名先輩のおかげですごく慣れてま~す」
新名さんに対してはどこまでも素直でかわいい後輩だ。それが余計に腹ただしい。
だがぼくは気づいている。彼女は今日、本のページを一度もめくっていないことを。
「では、そろそろ終わりにしましょうか」
「は〜い」
そして、まるでものすごい大作を読み切ったのかのような清々しい表情で、暁月さんは本を閉じたのだった。
まあ、周りに先輩しかいないし、緊張して萎縮してしまうよりは、これくらい伸び伸びできている方がいいのか。……いいのか?
そんなことを考えながら荷物をまとめていると、暁月さんに肩を叩かれた。
「さっきお疲れ様って言われて、めっちゃ顔がにやけてましたね~。……ちょっと気持ち悪かったです」
「うるさい」
ガチトーンの気持ち悪いという言葉は、正直かなりショックだ。もし、新名さんに同じこと思われていたら……。うう、死にたくなるから考えるのはよそう。あとボディータッチは肩でもドキドキするのでやめてくれ。男の子は繊細なのよ。
隣を見ると、新名さんも荷物をまとめ終えていた。
「新名さん、一緒に帰る?」
「いえ、けっこうです。今日は図書室で勉強してから帰りますので」
「そ、そうなんだ。がんばってね」
「……はい」
そして、新名さんは足早に部室を後にした。
あれ、なんかいつもより冷たかったような。というか避けられた? まさか、新名さんにまで、ぼくの顔が気持ち悪いと思われて……。なんてことだ。絶望しかない。
帰ったら、爽やかな笑顔の練習をしよう。
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