第16話
街の中は、魔道具で、便利で溢れている。しかし、それは退屈の象徴でもある。
今の自分にとっては目に入れたくない。
だから、街からは離れて普段は行かないような森の中を突き進むことにした。
立入禁止の看板が立っていたが気にせず入る。ダメと言われて引き返すような気分ではなかった。
「うわぁ、さすがに立入禁止なだけあるなぁ……」
まったく手入れがされておらず、それどころか異常なまでに草木が生い茂っていた。
ふと昼間の先生の言葉を思い出す。
「案外、こういうところに魔女が隠れてたりして」
あはは、まさかなと思いながら長い草を掻き分けて進む。
でも、もしも魔女に会ったとしたら。
昼間は災いを振りまいてるって話だ。伝承でしかないからどういう意味かはわからない。
だからこそ会ったら逃げないといけないよな。
ごくり。そう考えた途端、喉がなる。草を掻き分ける手の動きも慎重になる。
バシャバシャ。
すると、進む先から何やら音が聞こえてくる。
誰かいるのか……
緊張が走りつつも丁寧にゆっくりと前に進む。
そうして草道を抜けた先には小さな湖があった。夕日が沈みかけており、温かな光を反射した湖はとても綺麗だった。
その景色に見惚れていると、ボコボコと湖から気泡が立っていることに気付いた。
「ん?なんだあれ……」
目を凝らしながら近付いてみると、ザバーンと勢いよくそこから裸体の女性が立ち上がった。
「……」
突然の出来事に声が出ない。というか、初めて見てしまった、女性の裸を。
「……あら、来客だなんて珍しい」
こちらの動揺をよそに、女性は冷静だった。
「あ、あああの! すみません! ごめんさない!!」
急いで後ろを振り向く。
女性は最初不思議そうにしていたが、状況を理解したのか「ああ」と言った後、
「えっち」
と恥じらうわけでもなく、からかうようにそう言った。
「いや、そのまさかこんなところで水浴びしてる人がいると思っていなくて、わざとじゃないんです。ごめんなさい」
必死に謝罪をする。とにかくそれしか思いつかなかった。
「なんだい?女性の裸を見た感想がそれなのかい?悲しいねぇ、もう少し何か言うことがあるんじゃないかな」
そう言われて口籠ってしまう。
「ええと、その……」
「褒めたりとかさ」
何か褒めなければ。
「き…」
「き?」
「綺麗、でした……」
「あはは、ありがとう。やればできるじゃないか」
「はぁ、どうも……」
これが正解なのかと困惑していると
「もう大丈夫だよ、こっち向いても」
と呼びかけられる。どうやら先程のやり取りの間に着替えてくれたらしい。
ちょうど夕日は沈んでおり、あたりは暗くなっていた。そろそろ帰らないとまずいなと思う。裸を見ておいてこのまま去るのもどうかと思いつつも、呼びかけに応えるように振り向く。
「その突然ですみませんけど、僕そろそろ失礼し……」
女性を見て言葉に詰まる。やはり綺麗な女性だった。しかし、そうじゃない。見目麗しいというだけでなく、彼女は文字通り自ら淡く光を放ち、綺麗だったのだ。
「え……?」
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