二章

第14話

ーー昔々、あるところに月の祝福を受けた子が産まれました。

不思議なことに、その子は月の出る夜の間は奇跡の業を見い出すことが出来たのです。

しかし逆に、昼間は周囲に無自覚に災いを振りまいていました。

両親からも忌み嫌われ、まことしやかに魔女と呼ばれるように。

そんな魔女にも唯一の理解者がいました。

彼は魔女と共に人里離れた場所で幸せに暮らすことにしました。

2人は子供にもたくさん恵まれて幸せでした。

しかし、魔女は不老不死です。

そんな魔女と、普通の男性では一緒に添い遂げることは難しく、幸せな時間は長くは続きませんでした。

男が亡くなった後、魔女は子供達に奇跡の業の使い方を教えました。

子供達は教わった業を使って世界中の人の生活を助けたのでしたーー


「はい、ありがとう」



 先生がそう言うと、先程まで読み上げていた生徒が席に着く。


「この魔女の子供達が私達の祖先である。そして、奇跡の業というのが魔術のことを指し、現代のマナ技術を形作ることになった……」


 そこで止まる。


「ってちゃんと聞いてるのか、お前」


 怒声と共にチョークが一人の生徒の頭めがけて飛んでいく。


「いててっ」


 教室に笑い声が漏れる。


「眠気覚ましだ、一つ質問してやろう。

近代においては電気を使ったシステムが広く流通していた。しかし、現在は電気を使ったものは何一つ残っていない。代わりにマナ技術が盛んとなったがなせだかわかるか?」


 生徒は間髪入れずに答える。


「その方がかっこいいから」


 はぁ、と溜め息をつきながら先生が答える。


「違う、再生可能エネルギーだからだ。

今でも魔女と月の光の因果関係は立証されていない。

しかし月の光は魔女たちに祝福をもたらした。

そして、その彼女達が産み出したエネルギーは、今もなお循環して我々の生活を動かしている」


 生徒は、「わかってますよ、それくらい」と言いたげな顔だ。


 魔女は月による光合成でエネルギーを産み出した。

それは人類にとって大きな変革をもたらした。多くの戦争の火種にもなった。

 しかし、それ以上に、現代社会は魔女達が作った魔道具による恩恵を享受している。

 魔道具には魔女たちが生成した魔力が込められており、刻まれたマナ言語によって駆動している。一度魔力が込められていれば、ずっと動き続ける。魔法のような動力源は、電気に取って代わって社会を回した。そして。


「原初の魔女…通称『月明かりの魔女』は月の祝福により不老不死であると伝えられている。

伝承が本当なら今なお、どこかで生きている可能性は高いと考えられている」


「どこかで生きている、ねぇ……」


 あくびをしながらぼそりと呟く。

 確かに魔女らしいといえば魔女らしい。会えるのなら会ってみたいものだ……


 そうして、その生徒はまた微睡みの中に沈んでいくのだった。

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