第5話

「それは……」


 言葉に詰まった。

 なんと言ったらいい?

 君は呪われた子なんだ、って?

 まだ言葉を覚えて間もない彼女に理解できるか?


 いや、そういう問題じゃない。これは、この子に辛い現実を見せていいかどうかが問題なんだ。


 そんな答えは当に決まっている。だが、そのための答えを用意していなかった僕はそれ以上言えなかった。

 それを察したのか、はたまたそこまで興味のある事柄ではなかったのか。彼女は別の質問を投げかけてきた。


「じゃあ、私のお父さんとお母さんは?どこにいるの?」


「遠く離れたところにいるよ」


 嘘はついていない。

 遠いと言うほどではなかったかもしれないが、ここから離れたところにある僕達の街に住んでいると聞いたことがある。


「元気に暮らしているの?」


「ああ、元気さ」


「そっか、良かった」


 そこで質問は止まった。

 まだ様々な物事が頭の中で上手く結びつかないのだろう。

 両親が近くにいないこと。

 自分が牢屋にいること。

 これらはどちらも呪われた子だからなのだが、別々の問題と捉えているらしい。

 普通は親とともに家で暮らす、という当たり前を教えることは避けないといけないなと思った。


 そんな風にぼけっと考えていると、急に彼女は腕を差し伸ばしてきた。


「うわぁっ!」


 咄嗟のことで思わず叫んでしまった。


「何するんだよいきなり」


 つい声を荒げてしまった。


 こう何度も会いに行っているが別段今のところは呪いにはかかっていない。それがある程度の距離を保っていれば大丈夫であるという立証になっている。

 だが、触れるという行為はまだ試してみたことはなかった。一瞬でもダメなのか、時間がかかるのか、それとも本当は何も起こらないのか。

 何もわかっていない状態だ。

 だからどんなに彼女に魅了されていようと、触れることには恐怖を抱いていた。


「ご、ごめんなさい……」


 飼い主に怒られた犬のようにしゅんとしている。


「他人に触ってはいけないとは思わなくて……」


「でも、なんで私はこんなにも光っているのに、あなたは光っていないのか、それがすごく気になって。触れてみたらなにか分かるのかと思ってやってしまいました。ごめんなさい」


 言われてみれば確かにそうだ。

 僕から見た彼女だけでなく、彼女にとってもまた僕というのは珍しい存在なんだ。

 自分と違うところがあったら不思議に思うのも無理はない。

 これは隠し通せない、そしてさっきの怒声の言い訳もできそうにないと悟った僕は、大人しく彼女に告げることにした。


「普通の人間は光らないんだ」

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