第4話

 あの子が言葉を話せるようになったら何かが解決すると思っていた。

 忌み嫌われて隔離されていたから、そもそも周りで言葉を聞くということ経験自体が不足しているんだ。そう結論付けた僕は、年齢は自分とほとんど変わらなくともまだあの子は赤ん坊状態なんだと思っていた。

 だから話せるようになれば、みんなと意思疎通が出来れば、何かが変わるんじゃないかと期待していた。


「今日も綺麗だね……」


 月明かりで光る彼女を見てうっとりしていると気付いた。


 そもそもなぜ光っているのか。

 いつも光っているから気にしなくなってしまっていた。

 しかし人間ではない。

 これは、そう思うに足りうる事象であり、おそらく呪い云々と関係がある。

 だから、これがなんなのかわからないことには、ここから出られないのではないのだろうか。


 急に思い出すかのように不安が募り始めた僕をよそに彼女は


「きょう……?きれい……?」


と初めて意味のある言葉を返してくれた。


「え……?」


 あまりの衝撃に思わず言葉が出なかった。


「きょう! きれい! きれい!!」


 嬉しそうに何度も連呼するその姿を見ていると、まだ子供なんている歳でもない僕も、思わず自分の子供が初めて言葉を発した時のような感動を覚えた。


 よかった。全部無駄じゃなかったんだ。

 先程までの不安なんて全部忘れるくらい嬉しかった。



 それからは今までのようにただ話しかけるのではなく、言葉を一つ一つ教えていく日々だった。


 どんどん言葉を覚えていくのが嬉しくて、どんどん新しい言葉を教えていって。


 1ヶ月後には彼女と会話できるようになっていた。


 だけど、会話できるようになったがゆえに、新たに直面する壁が現れた。

喜ぶ僕を神様があざ笑うかのように。


「ねぇ、どうして私はここに閉じ込められているの?」


 言葉を覚えて色んな事を知った彼女が思い浮かぶであろう至極真っ当な疑問に、答えられる用意をしていなかった僕は何も答えられなかった。

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