第3話
見惚れていた。
なぜ光っているのかわからない。いや、そもそも本当に光っているのだろうか。
あの子が綺麗で、ついついそう見えるように錯覚しているだけではないのだろうか。
どれくらいの時間見つめ合っていただろうか。
「あうあぁ?」
彼女が発するものがまたしても言葉とは言い難いことに気付きハッと我に返る。
思わず慌てふためき、僕はそのまま後ろに倒れ込んでしまった。
「いててっ……」
本当に魔女がいた。いや、あれは魔女なのだろうか。
でも発光していた。見間違いじゃなければ。それに言葉を発せていない。
何がなんだかわからない……
しばらく倒れたまま色々と思案してみたが、やはりわからなかった。
中に女の子がいた。それだけは紛うことなき事実だ。
ただ普通の女の子じゃない。でも、それが牢屋に閉じ込める程のことなのかは僕にはまだ理解できなかった。
立ち上がり脚の汚れを払う。
今日はもう帰ろう。わかったことがあるだけ十分収穫だと思った。
帰り道、なんとはなしに自分の手を空に掲げてみる。
「光んないよな、そりゃあ……」
普通の人間が月の光で光るはずがない。そんな当たり前のことを確認した。
ーーこれが、僕とあの子の初めての出会い。
言葉もわからなかったあの子がどこまでこの時のことを覚えててくれているのかはわからない。
でも、僕にとっては大事な思い出で。きっと一目惚れだったんだと思う。
だから、あの子を外に出してあげたくて。ただその一心で、翌日からも足繁く通った。
最初の数日程はコミュニケーションも取れなくて、ただあの子の様子を見に行くだけだった。でも次第に僕が来ると気付くや否、窓のそばまで来てくれるようになった。
そんなことが僕は嬉しくて。胸が踊って。気付けばなんてことない話をするようになった。
「……ってことがあったんだけど、わかるかなぁ?」
「あぁぅ?」
「わかんない、よね……」
言葉がわからなくても伝わってほしい。そう思って必死に話しかけてはみたけれど、やはり厳しいのかもしれない。
「でも赤ん坊だって、大人達の話をたくさん聞くうちに言葉を覚えていくもんだからなぁ……」
一人でブツブツ呟く僕のことを物珍しそうにあの子はじっと観察していた。
「こうやって興味を示してくれているうちは根気勝負かなぁ?」
「うぁ?」
答えるように言う彼女の姿が愛おしくて頭を撫でてあげたかった。
でも……
ーー触れると呪われる。
鉄格子からのばしかけた手をそっと戻す。
信じているわけでない。でもまだ不確定要素が多すぎる。
僕だって怖くないわけではない。恐怖心はある。
恐れているから。畏れているからこそ。もしかしたら彼女に惹かれているのかもしれない。
「君は一体何者なんだい?」
尋ねてみても返事はない。
はぁ、と溜め息をつきつつも「またね」と彼女に手を振って帰宅した。
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