月に誘われて



 驚いたとかいう比じゃなかった。

 これでもオタクかつ夢女子で日々、転生を夢見ていたからいよいよ現実と想像の違いが分からんくなったのかとぶっちゃけ焦った。

 焦りすぎて月が輝いているのにも関わらず怪盗よろしくのベランダから外に出た。


 始めて着た肌触りの良いネグリジェが風になびく。

 足が土で汚れてしまうのもお構い無し。

 見慣れない景色が流れていく。

 走って、走って走り続けた。

 走りすぎて肺が苦しい。

 けど今はとにかくここがどこか知りたかった。


 

「はぁ、、、はぁ、、、、」



 足がもう動かなかった。

 綺麗なネグリジェの裾は土で汚れ、足の裏も傷だらけ。

 息も整ってきたので、周りを見渡すと次は恐怖で心臓が速く波打つ。

 墓場や。何かに呼ばれたんやろうか。

 夜中に墓場。

 恐怖で体が強ばってしまうが、やけに墓場が騒々しい。

 墓場といえば静かと連想するが今夜は違った。

 恐怖半分、好奇心が半分。

 迷った結果、好奇心が勝ってしまった。

 一歩一歩と声のする方へ向かう。



「、、ってやるんだ!!」



 声がだんだんと大きくなっていき、バレないように近くに鎮座していた墓に身を潜めた。

 月明かりで声の主の姿が見えた。

 怒鳴っている方は、首や腕、指に付けた黄金の装飾が夜でも分かる輝きを放っている。

 もう一人いるがここからはよく見えない。

 

 

「お前を目覚めさせたのはおれだぞ!?恩を返すのは当然だろう!!」



「、、、、、、ちッ、、、、」



「この野郎!リストットユセー!」


 魔方陣が現れた。

 何や今の、、、。魔法?

 何の魔法かは分からないが、反抗した人の方からドサッという落ちる音が聞こえた。

 魔法と思われるものをを使った男は気色悪くニヤニヤしたまま反抗した人に向かって歩みを進めた。



「、、、、ッ!ちょっと、、待ったあッ!!」



 近くからそんな言葉が聞こえた。

 自分の心臓は落ち着いたはずなのにひどく痛い。

 いつの間にか男が目の前にいたので気づいた。

 私が発した言葉ということに。

 


「な、何をしているんでしょうか」

 


 緊張で声が上ずるが強気に聞く。

 効果があったのか男が焦っているのが分かった。


「あ、あなたは、、ルイーナ•ウィグノトラント嬢!!なぜここにッ!」



 私のこと、、やんな、、?

 始めて聞く名前は妙に馴染みがある。

 自分の名前を聞いたせいか分からないが妙に落ち着つき始めた自分がいる。

 



「もう一度問います。あなたはここで何をしていますか?リーファ男爵」



 男の名前が自然に口から出た。

 ここに来てからリーファ男爵という言葉は聞いていないはずだ。

 ウィグノ、、なんちゃらとは関係があったんか?

 さっきまでの威勢の良さはどこへいったのか。リーファ男爵は目を泳がしてたどたどしく口を開く。


「ルイーナ嬢には関係ないことです。それよりなぜこのような場所にお一人で?」



 それはごもっともだけど、話を変えたなコイツ、、、。



「今は私の話はしていません。あなたのことを話しているのです」



 目を細め、圧をかけるが言い訳を考えているのかボロを出さないようにか一向に口を開かない。



「僕を操ろうとした」



 後ろから凛とした声が耳を撫でる。

 振り返ると、さっきまで倒れていた男が服の汚れをを払いながらゆっくりと立ち上がった。

 男の美貌に息を飲んだ。

 月明かりを受けて輝く白髪。前髪から見え隠れする透き通った黄色の瞳。

 しかし、容姿に似合わない擦り切れている浴衣。

 すぅー、、どうしようすっげぇタイプ。中性的な見た目がまた良き、しかもイケボやん。



「あ、操ろうとは失礼な!私は、、そっそう!倒れた君を起こそうとしただけで!!」



 苦し紛れからでる言葉は聞いていられない。

 さっきまでオタク全開けどこの言葉を聞いて正気に戻った。

 痛い人、、、。私は全てやないけどある程度はみとるけん、意味ないのに。

 肩をすくめ哀れと言う代わりに頭を降る。



「ほう、嘘をつくとは、、、」



 口調が変わった気がしてもう一度浴衣を着た男をみるが、そこには土埃が舞っているだけ。

 後ろからリーファ男爵の間抜けな「ひッ、、」という声が聞こえた。



「のう、主や。わしの前で嘘を吐くとはとんだ命知らずじゃ。わしは人間に嘘を吐かれるのが一等嫌いなんじゃ」


 浴衣の男が拳を振り上げる。

 馬乗りしているためリーファ男爵は動けない。

 


「スットムービグ!!」

「きかんわ」



 リーファ男爵が発動させようとした魔方陣はむなしくも砂のごとく消えていった。



「これは、ノーエフェッ」



 一発。

 続けて二発。

 三発目に行く前に腕に手を置かれた。

 


「やめてください」



 懇願するような声色が響く。



「この男に情けをかけたのか」



 重低音の声が脳を突き刺す。

 どす黒い感情がこっちのまで侵食してきそうだ。

 しかし、負けじと歯向かう。



「情けはかけていません。しかし、これは駄目です。リーファ男爵の処置は私に任せてください」



 男の目を見て伝える。

 彼の赤い目が私の真意を探っている。

 理解してくれたのかふらりと立ち上がり顔を上げ月を眺めた。

 まるでさっきまでの出来事を忘れたように。

 


「リーファ男爵。このことは全てお父様に報告させていただきます」



 殴られたせいで顔が腫れ上がり、鼻血を垂らしている。

 そんな惨めな顔が私を見る。



「ッ、、、。あっあなたが夜中にここにいることもバレますが良いのっですか!?」

「、、、、、、」



 その言葉に思わず目を見張る。

 しめたといわんばかりに続ける。



「ウェルアン国で一、二を争う資産家のウィグノトラント家に悪い噂が流れでもしたら大変でしょうに。ここはお互いなかったことに、、」

「黙りなさい」



 今日は驚くことばかり。

 転生と自分の行動。

 そして、誰もが震え上がりそうな高圧的な声。

 


「リーファ男爵。私は今、腸が煮えくり返っているの。発言は慎重にした方があなたのためよ?」



 嘘をつくわ、なかったことにしようとするわ、コイツの人間性がよぉ分かった。

 


「私は帰ります。この人も連れて。あなたの処置は先程も言ったようにお父様が決めますので待っていなさい」



 そう、リーファ男爵に伝え浴衣の男を見ると彼は一つ頷いた。



「あいわかった。行くぞ」



 なんか逆にリードされとる気がする、、。

 顔が青ざめたままのリーファ男爵を置いて私は浴衣の男と一緒に夜道を歩いた。

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ミリシラ転生 @HUJItuzdura

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