第5話
あの後も二人でデートすることが多くなった。
スカイツリーやディズニーランド、はたまた彼女のお家までと基本的なデートスポットを制覇する頃にはそろそろ後期の学費の支払いが迫っていた。
もう本当に時間がないけど、徐々に彼女の存在が私の中で大きくなっていっている。
そろそろ夏の暑さを本格的に感じるようになった休日。高級レストランのテラスで食事をしていた時だった。
「今夜も美味しかったです。ありがとうございます。雪那さん」
「ふふ。喜んでもらったようでよかったわ」
おしゃれにシャンパンを入れるグラスを持つ彼女が微笑んでくれるが、なんか彼女の笑みが深いように感じる。
「どうかしましたか?」
「いえ。少し感慨深いと思っているだけよ。あんな出会いだったあなただけど、ここまで仲良くなるなんて思っていなかったわ」
主にあなたのせいで最悪な出会いになりましたけどね。比喩的にではなく。
すっかり私も心のコントロールができるようになり、笑顔で応える。
「私もすごくいい思いをさせていただきましたし。本当にありがとうございます」
「ええ……まったくやられたって感じだわ」
「なんです?」
そう言うと彼女はグラスを置いて私の方に一歩近づいてくる。
「ふふ。こっちの話。それよりも、もう少しあなたのことを近くで見てみたいわ。近寄ってきなさい」
「えっ? なんでですか?」
「察しが悪いわね……いいわ」
いうなり距離を詰めてくる雪那。え、なに?
私のシャツを掴みながら、彼女が踵を上げ、唇が塞がれる。
「なっな」
「……やってみたけど、ドキドキするわね」
舌を絡ませるようなディープなやつじゃなくて、そっと触れる程度のキスだった。時間は一秒経っているかいないかぐらいなのに衝撃がすごい。
女の子の唇ってすごい柔らかい……まあ、ファーストキスなのでそもそも男の子とのキスの感触なんて知らないんだけね。
顔を赤しながらアホ面で口をパクパクしているだけの私とは違って、彼女は淑女みたいに片手で自分の口を押えていた。
これってもしかして落ちている?
「雪那さん……」
「ごめんなさい。ちょっと恥ずかしいので、ここで失礼するわ。ああ、会計はもう済ませているからあなたはもっといていいからね」
早口で捲し立てながら、すごい勢いで雪那が去っていき、私がポツンと取り残されてしまった。
自分のグラスを持ちながら、窓を見て思う。
ここまでは計画通りなはずなのに……狙い通りに落ちていると思うとなぜだか全然嬉しくなかった。
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